鎌倉初期の説話集。源顕兼(あきかね)編。1212年(建暦2)以後15年(建保3)2月までに成立。6巻。説話を〈王道・后宮〉〈臣節〉〈僧行〉〈勇士〉〈神社〉〈仏寺〉〈亭宅〉〈諸道〉に分類集録し,その形態は中国の類書に似る。462話収録。《中外抄》《富家語(ふけご)》《江談抄(ごうだんしよう)》《扶桑略記(ふそうりやつき)》をはじめとする諸種の先行文献の記事を抄出したものが中心となっている。説話に対しての編纂者の評語,教訓の類は付されていない。内容や分類項目からうかがえる本書の意図は,貴族社会をその裏面にまで踏みこんで描くことにあった,と思われる。説話集冒頭に称徳天皇と道鏡の好色説話を置き,花山院と馬内侍,後冷泉院と源隆国にまつわる逸話など,天皇に関する好色秘話を含むことにもその一端が示されている。《宇治拾遺物語》の編纂資料となった。また,本書の強い影響のもとに《続古事談》が成立した。
執筆者:出雲路 修
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鎌倉初期の説話集。王道后宮、臣節、僧行、勇士、神社仏寺、亭宅諸道の6巻からなる。源顕兼(あきかね)編で、編者の没年(1215)直前の成立か。称徳(しょうとく)女帝の淫事(いんじ)、花山(かざん)帝の出家の真相、在原業平(ありわらのなりひら)と伊勢斎宮(いせさいくう)との密通事件とその事後処理など、貴族社会や政治にまつわる秘話や裏面話の数々があからさまに書き付けられており、王朝社会の隠れた一面をきわめて印象的に物語っている。説話の総数450余のうち大半が『小右記(しょうゆうき)』(1032以降成立)、『扶桑略記(ふそうりゃっき)』(1094ころ成立)などの日記・歴史書、『中外抄(ちゅうがいしょう)』(1154以降成立)、『富家語(ふけご)』(1161以降成立)などの故実書から抜粋、抄出されたもので、やや難解な漢文体仮名交り文で綴(つづ)られているが、内容的には価値が高く、きわめて興味深いものがある。『続古事談』(1219成立)という影響作のほか、『宇治拾遺(うじしゅうい)物語』(1221ころ成立)など後続の説話集に多くの素材を提供しており、文学史的にも重要である。
[浅見和彦]
『小林保治校注『古事談』上下(1981・現代思潮社)』
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…上下2巻より成り,1137年(保延3)より54年(久寿1)の間の有職故実に関することや人物の逸話などを,かな交り文で筆記している。鎌倉時代の説話集《古事談》は本書から多く記事をとっているといわれる。尊経閣文庫に鎌倉時代初期書写の本書の下巻が伝わる。…
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