(1)夜間,敵の城,館,陣などに討ち入る戦闘形式で,保元の乱での高松殿への夜討,赤穂浪士の吉良邸討入りなどはその典型である。中世の武士社会では,通常の昼間の戦闘には合戦の日時,場所の指定など一定のルールがあったとされるが,夜陰に紛れ名のりもあげず侵入する夜討は,こうしたルールにまったく適合しない。しかし夜討がまったくの無法や卑劣な行為であったわけではなく,武者の芸の一つに数えられていたように,それ自身,昼とは別の正当性をもつものであった。(2)夜間,他人の宅,家に侵入して強奪,放火,さらに殺人などを行う犯罪。中世では《御成敗式目》に大犯(だいぼん)の一つとして挙げられているように,武家法,本所法を問わず殺人などとならぶ重罪であった。(1)(2)は夜という時間,中世の私的支配の根源とされる〈宅〉への討入りという点では共通するにもかかわらず,社会的許容度においては大きな差があり,二つの夜討の関係はいまだ明らかにされていない。
執筆者:笠松 宏至
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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