Basedow病(Graves病)

  • Basedow病(Graves病)(甲状腺機能亢進症)

内科学 第10版の解説

(1)Basedow病(Graves病)
定義・概念
 Basedow病(Graves病)とは,自己免疫異常の関与により甲状腺において過剰の甲状腺ホルモンが合成,分泌される疾患である.甲状腺はびまん性に腫大し,甲状腺ホルモン過剰によるいろいろな症状,特有の眼症状,限局性粘液水腫などを認める.1935年にGravesにより甲状腺腫と心臓に関する諸症状を伴った疾患として,また1940年にBasedowによりMerseburgの3徴(甲状腺腫,眼球突出,動悸)を伴った疾患として報告された.このため英米医学圏ではGraves病,日本を含むドイツ医学圏ではBasedow病とよばれることが多い.
病因
 Basedow病は橋本病とともに代表的な臓器特異的自己免疫疾患である.複数の環境的要因と遺伝的要因の関与のもとに,免疫制御機構の破綻が生じることによって発症する.発症機序の中心は,TSH受容体に対する刺激性自己抗体である.TSH受容体を刺激する自己抗体の出現はBasedow病に特異的で,これにより甲状腺ホルモンの合成・分泌,甲状腺細胞の増殖が促進される.TSH受容体抗体(anti-TSH receptor antibody:TRAb)には複数の抗体が含まれ,受容体機能を刺激する甲状腺刺激抗体(thyroid stimulating antibody:TSAb)のほか,TSHの甲状腺刺激効果を逆に抑制する甲状腺刺激阻害抗体(thyroid stimulating blocking antibody:TSBAb),さらには受容体に結合するが機能には影響しない抗体がある.TRAbは現在の高感度測定法ではほとんどのBasedow病患者で検出され,刺激抗体が主体である.TSAbとTSBAbの両方の抗体が存在する場合は,両者のバランスで臨床症状の強さが決まる.まれにTSBAbのみが強陽性の場合がある.このような患者では,阻害型抗体によりTSH受容体作用が強く抑制され,甲状腺腫は触知されず機能低下となる.
 TSH受容体に対する自己抗体が生じる詳細な機序は未解決な部分が多い.甲状腺に対する局所的あるいは外的傷害(insult)が甲状腺内でT細胞の活性化を引き起こすか,あるいは甲状腺外で活性化されたTリンパ球が甲状腺に到達することが,発端と考えられている.活性化T細胞からインターフェロン-γなどのサイトカインが分泌され,甲状腺細胞にヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)クラスⅡ分子が発現する.HLAクラスⅡ分子を発現した甲状腺細胞は,TSH受容体ペプチドを結合し抗原提示細胞として機能する.多くの自己免疫疾患と同様,疾患感受性は遺伝因子と環境因子の組み合わせによって規定される.一卵性双生児における発症率は二卵性双生児のそれより有意に高い.HLA-DR,CTLA-4,PTPN22などの遺伝子多型との関連が報告されている.環境因子としては,ストレス,喫煙,感染,ヨウ素摂取量,性ホルモン,妊娠などが重要である.
疫学・発生率
 欧米のこれまでに報告されているBasedow病の発生頻度をまとめると,女性では年1000人あたり1人程度,男性はその1/10ほどと概算され,圧倒的に女性に多い.ヨウ素摂取量が発生頻度に影響すると考えられており,摂取率が高い方が頻度も少し高い.わが国にはしっかりした統計があまりないが,1000人あたり0.6~3人程度の報告がある.20~40歳代に頻度が高い.外来診療における甲状腺機能亢進症の大部分はBasedow病である.
病理
 甲状腺はびまん性に腫大し,やわらかく,血流に富む.組織学的には,甲状腺濾胞は小さいものが多く,コロイド含量が乏しい.濾胞を取り囲む上皮細胞は丈が高く,濾胞内に乳頭状に突出している.血管増生が著明で,種々の程度のリンパ球浸潤がみられる.リンパ濾胞の形成,線維の増殖も認められることがあるが,橋本病でみられる上皮細胞の変性所見はない.
臨床症状
 表12-4-5にBasedow病患者でよく認められる主訴と臨床症状をかかげる.甲状腺腫,甲状腺中毒症による諸症状,Basedow病に特有の眼症状と皮膚症状に分けて述べる.
1)甲状腺腫:
一般にびまん性でやわらかく表面平滑である.甲状腺部に聴診器をあてると,しばしば血管雑音(bruit)が聴取されるが,これは甲状腺の血流増加を反映し,甲状腺の活動亢進のサインである.
2)甲状腺中毒症状:
過剰な甲状腺ホルモン作用によって引き起こされる症状で,Basedow病特有なものではなく,甲状腺中毒症がある期間以上持続すれば原因にかかわらず認められる.動悸,頻脈,疲れやすさ,発汗過多,暑さに耐え難い,手指振戦などは,多くのBasedow病患者で認められる症状で,診断上重要である.食欲は亢進気味で食事量が保たれているにもかかわらず,エネルギー消費がまさり体重が減少することが特徴である.若い患者では摂食量が消費カロリーにまさり,体重がかえって増加することもある.精神的に不安定となり,いらいらしたり落ちつきがなくなる.著しい場合は躁病と間違えられることもある.皮膚は温かく湿潤している.軟便,下痢傾向となる.女性では生理が不順となり,月経寡少,無月経がみられる.循環器症状としては心拍動の増強,Ⅰ音の亢進,収縮期血圧の上昇と拡張期血圧の下降がみられ,しばしば不整脈,特に心房細動が生じる.近位筋の筋力低下がみられ,著しいときは成人男性でもしゃがみ立ちができなくなる.高齢者では,頻脈,発汗過多などの代謝亢進症状は顕著でなく,体重減少,全身倦怠感,あるいは原因のはっきりしない心不全症状が主体になることが多い.精神的にも無力状態が前面に出ることがあり,無欲性あるいは仮面性甲状腺機能亢進症(apathetic/masked hyperthyroidism)とよばれる.
3)甲状腺眼症(thyroid-associated ophthalmopa­thy):
Basedow病特有の眼症状として,眼瞼後退,眼瞼腫脹,眼球突出,複視などがみられる.最もよくみられるのが眼瞼後退で,交感神経の緊張によるMüller筋の異常収縮,あるいは上眼瞼挙筋または上直筋の炎症性変化によって生じる.眼裂が拡大し大きく見開いた眼となる.瞬目が減少(Stellwag徴候)し,下方をみる際に眼球の運動よりも上眼瞼の動きが遅れるため,上眼瞼の下に強膜が露出し白眼がみられる(Graefe徴候).また近くの物をみるとき輻輳が持続困難となる(Möbius徴候).甲状腺眼症特有の病態として,眼窩内脂肪組織の増大と外眼筋の肥大がある.このため眼窩内圧が上昇し,眼球突出,眼瞼腫脹,結膜障害などが生じる.眼球結膜の充血,浮腫が起こり,患者は流涙,羞明感,眼球の異物感,痛みを訴える.眼球突出は有名であるが,みられるのはBasedow病患者の30~40%で,全員に起きるわけではない.Hertel眼突計を用いて計測した眼球突出度は日本人の平均は約13 mmで,17 mm以上のとき眼球突出とする.ほとんどが両側性である.CTやMRで外眼筋の肥厚が認められるが,特に下直筋,上直筋,内直筋に多い.重症になると眼球運動制限のため複視が生じる.上方および斜め上方を注視したときに最も出現しやすい.眼球突出が高度になると兎眼となり,睡眠時も完全に閉眼しないため,乾燥して角膜を障害することがある.また外眼筋の肥大が著明で視神経を圧迫すると,視力低下さらには失明の危険もある.
 甲状腺眼症の発症機序は,眼窩組織内に浸潤したT細胞から出されたTNF-αやIFN-γなどのサイトカインが眼窩内線維芽細胞を刺激し,酸性ムコ多糖類を主とするムチン物質(グリコースアミノグリカン)の分泌,蓄積を引き起こすことである.球後組織内にも発現しているTSH受容体が免疫反応に関与していると考えられている.このほか,眼窩内組織におけるIGF-Ⅰ/IGF-Ⅰ受容体系が近年注目されている.
 甲状腺眼症を生じるのは大部分が甲状腺機能亢進症を伴うBasedow病患者であるが,まれに甲状腺機能は正常でBasedow病特有の眼症状のみを示す場合がある.これをeuthyroid Graves病とよぶ.まれには橋本病患者に眼症がみられることもある.このため従来使用されたBasedow病眼症という名称より,甲状腺眼症の方が推奨されている.
4)前脛骨/限局性粘液水腫(pretibial/localized myxedema):
まれに下肢前面から足背部にかけて皮膚面より硬く盛り上がる浮腫状の変化をみることがあり,前脛骨粘液水腫という.酸性ムコ多糖類を主とするムチン沈着による.毛孔が開大しオレンジ皮様を呈した,粘重な圧痕を残さない浮腫(non-pitting edema)で,Basedow病特有の皮膚所見である.ほとんどが著明な眼症を伴う.頻度は低いが甲状腺ばち指(thyroid acropathy)をきたすこともある.
病態生理・検査成績
 甲状腺でのホルモン合成・分泌の亢進の結果,血液中のT3,T4濃度は上昇し,ネガティブフィードバック機構によりTSH分泌は抑制される.末梢組織の代謝状態を反映する種々の検査所見は,代謝亢進を示す.糖代謝は食後血糖が急速かつ高度に上昇する状態(oxyhyperglycemia)を示す.甲状腺の活動亢進により甲状腺ヨウ素摂取率は上昇している.一方,Basedow病は臓器特異的自己免疫疾患であり,いくつかの甲状腺自己抗体が検出される.
1)血中甲状腺ホルモン濃度:
ほとんど大部分の血中甲状腺ホルモンは,サイロキシン結合グロブリン(thyroxine-binding globulin:TBG)やトランスサイレチン(transthyretin),アルブミンなどの結合蛋白と結合して存在する.細胞内に取り込まれホルモン作用を発揮できるのは遊離型ホルモンであるが,遊離型T4は血中総T4のわずか0.03%程度,遊離型T3は総T3の0.5%程度にすぎない.Basedow病では総T4,総T3,遊離型T4,遊離型T3がともに上昇する.しかし,ときにT3のみが上昇してT4の上昇がみられない症例があり,T3中毒症(T3 toxicosis)とよぶ.
2)血中TSH濃度:
未治療Basedow病では,血中TSH濃度は測定感度以下となる.TSHの測定はきわめて鋭敏であり,T3,T4より早く変化を表す.甲状腺ホルモン濃度が正常で臨床症状がなくても,血中TSHが感度以下に抑制されていれば,潜在性甲状腺機能亢進症(subclinical hyperthyroidism)と考えてよい.
3)甲状腺放射性ヨウ素摂取率(thyroidal radioactive iodine uptake):
放射性ヨウ素(123I)を経口投与して,24時間後に投与123I量の何%が甲状腺に取り込まれたかを調べる.甲状腺の機能が亢進しているかどうかをみるのにすぐれた検査である.この検査を施行するには,ヨウ素造影剤の使用やヨウ素含有薬品などの投与を避け,1週間ほど昆布などヨウ素を含む食品の摂取を禁止する.123Iの代わりに,甲状腺への集積機序がヨウ素と似ている99mTcも用いられる.99mTc摂取率は食事のヨウ素制限の必要はなく,静脈注射30分後に甲状腺への取り込みを調べるため,123I摂取率より施行が簡便である.ただし99mTcはヨウ素と異なりサイログロブリンに結合しないため,甲状腺への早期の取り込みのみを示し,集積量を表さない.123I摂取率の正常値は7~35%,99mTc摂取率は0.4~3%で,Basedow病ではいずれも有意に上昇する.無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎などの甲状腺中毒期では,甲状腺の活動は抑えられているため摂取率は低値で,Basedow病との鑑別に有用である.
 甲状腺シンチグラフィ(thyroidal scintigraphy)は,甲状腺内に取り込まれた放射性物質を描出させることで,甲状腺内部の機能状態をみる検査である.Basedow病ではびまん性に腫大した甲状腺全体に均一な集積を示す.後述するPlummer病や中毒性多結節性甲状腺腫では,結節部分に一致した集積がみられ,診断に有効である.
4)甲状腺自己抗体:
TSH受容体抗体の測定法には,TSH受容体に対する結合力を調べる方法と,cAMP産生を指標とするバイオアッセイ法がある.125I標識TSHのTSH受容体に対する結合を阻害する活性をもとにして測定され,当初TBII(TSH-binding inhibitor immunoglobulin)と名称された.最近はモノクローナル抗体(M22)をトレーサーとして用い,被検血清がM22とTSH受容体の結合を阻害する強さで測定されている.バイオアッセイ法は,培養甲状腺細胞に患者血清IgGを添加したときのcAMP産生を指標とする.甲状腺細胞を刺激する抗体として,甲状腺刺激抗体(TSAb)と称される.甲状腺刺激阻害抗体(TSBAb)はTSH受容体に結合してTSHによる受容体活性化を抑制する抗体で,TSAb測定系で添加したTSHのcAMP産生能を阻害する活性として測定される.厳密にはTRAbはTSH受容体に対するこれらの抗体の総称となるが,実際上はTSH受容体との結合能で測定される抗体の意味で用いられる.Basedow病ではTRAb,TSAbが陽性となる.このほか抗甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase:TPO)抗体(かつて抗ミクロソーム抗体とよばれたものと同一),抗サイログロブリン抗体も陽性となる.TSAb,TSBAb測定法もモノクローナル抗体を用いた新しい方法が開発されている.
5)末梢組織の代謝状態を表す検査:
代謝が亢進するため,血中コレステロール濃度の低下,アルカリホスファターゼ(骨型)値の上昇,性ホルモン結合グロブリン(sex hormone binding globulin:SHBG)濃度の上昇などが認められる.
6)T3抑制試験:
甲状腺機能が正常のフィードバック機構で調節されているかどうかをみる検査で,Basedow病の診断が難しい症例やeuthyroid Graves病またBasedow病の治癒判定に行われてきた.検査に時間がかかることと,TSHやTRAbの測定感度が上がったことから,最近ではほとんど行われないが,検査方法の原理は病態生理の理解に役立つ.甲状腺放射性ヨウ素摂取率を測定した後,75 μg T3を7日間投与し,再び摂取率を測定する.正常ではTSHが抑制されるため,甲状腺放射性ヨウ素摂取率は前値の半分以下に低下する.Basedow病では甲状腺の刺激がTSHではなくTSAbによるため,放射性ヨウ素摂取率は低下しない.
診断・鑑別診断(図12-4-14)
 甲状腺中毒症所見に加え,びまん性甲状腺腫とBasedow病眼症がみられる場合は,診断は容易である.老人では典型的な甲状腺中毒症の臨床症状が示されないことがある(masked hyperthyroidism).原因不明の心不全や頻脈,心房細動がみられるとき,あるいは急に体重が減少しているときには,Basedow病を疑ってみる必要がある.明らかな甲状腺中毒症状がなくても両側性の眼球突出や複視がある場合は,euthyroid Graves病を念頭におき甲状腺機能検査などを行う. 血中甲状腺ホルモン濃度の上昇が認められた場合には,甲状腺中毒症を裏づける臨床症状や,血中コレステロール低値やアルカリホスファターゼ高値など末梢組織における代謝亢進を示す所見があるか調べる.甲状腺ホルモン作用の過剰がみられない場合には,血中甲状腺ホルモン濃度の上昇が見かけ上のものである可能性がある.TBGの増加(総T4,T3濃度が上昇するが,遊離型T3,T4は増加しない),薬物のアッセイ系への影響などを念頭におく.また,比較的まれな疾患であるがBasedow病としばしば誤診される疾患として,甲状腺ホルモン不応症がある.甲状腺ホルモンの作用機構上に何らかの異常があり,そのため下垂体におけるT3によるTSH分泌に対するネガティブフィードバックが正常に働かず,TSHの抑制が適切になされない.このため,血中甲状腺ホルモンレベルに不相応なTSH分泌となる.血中遊離型T3,T4は高値で,かつTSHが抑制されていない,いわゆる不適切TSH分泌状態(syndrome of inappropriate secretion of TSH:SITSH)がみられる.先天的なT3受容体の遺伝子異常が主体であるが,遺伝子異常が見つからない症例も多い.これらはT3作用機構に関連する何らかの因子の異常と想定されているが,T3受容体以外の異常はまだ同定されていない.末梢組織でもT3受容体異常のため,血中甲状腺ホルモンは高値でもそれに見合ったホルモン作用が発揮されず,甲状腺中毒症状はみられない.血中甲状腺ホルモン値の上昇があるため,Basedow病と誤診されやすい.不適切TSH分泌状態に気づくことが,この疾患を発見する糸口となる.
 血中甲状腺ホルモン値が高く代謝が亢進しているときは,表12-4-4の疾患を念頭に鑑別を行う.Basedow病の診断にはTSH受容体抗体が重要である.現在の高感度アッセイ法では,Basedow病ならほとんどTRAb陽性となる.また,甲状腺放射性ヨウ素摂取率で甲状腺の活動性を評価することは有用である.もし活動性の亢進がない場合は,無痛性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎,甲状腺ホルモン剤の過剰服用を考える.いずれも甲状腺放射性ヨウ素摂取率の低値,TSH受容体抗体陰性,眼症がみられない点で,Basedow病と区別できる.
合併症
1)甲状腺眼症:
【⇨臨床症状
2)心不全:
甲状腺ホルモンは心筋の収縮力を高め(inotropic effect),刺激伝導系における洞調律の発生頻度を増し心拍数を増加させる(chronotropic effect).これらはいずれも甲状腺ホルモンの直接作用による.また末梢血管抵抗を低下させ,心筋弛緩速度の亢進および組織における熱産生の増加などが見られる.これらの結果,循環血液量が増加し,1回あたりの心拍出量の増加と心拍数の増加から,心拍出量全体が増加する.心臓は典型的な過剰運動状態(hyperdynamic state)となり,心血管系が適応できず機能不全状態になった場合は,高心拍出性(high output)心不全となる.
3)周期性四肢麻痺:
わが国や東南アジアでは周期性四肢麻痺の合併が高い.ほとんどが男性Basedow病患者である.早朝起床時に四肢脱力発作をきたすが,脳神経麻痺や意識障害はない.発作中は血清Kの低下を認める.Basedow病治療により甲状腺中毒症状が改善すると,発作は生じなくなる.【⇨15-21-7)】
4)重症筋無力症:
Basedow病に重症筋無力症を合併することがある.眼筋麻痺型が多い.
治療
 Basedow病の治療として自己免疫機序そのものに対する根本的治療は確立していない.薬物で甲状腺ホルモン合成を抑制する方法と,放射性ヨウ素ないし手術で甲状腺組織を縮小し,甲状腺ホルモン産生を制限する方法が行われている.それぞれの治療法には長所と欠点,適応と禁忌がある(表12-4-6).
1)抗甲状腺薬による治療:
チアマゾール(メチマゾール,MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)がある.胃から速やかに吸収され甲状腺に取り込まれる.甲状腺ペルオキシダーゼを阻害するため,ヨウ素の有機化が障害され,サイログロブリンのチロシン残基へのヨウ素結合が阻害される.甲状腺ホルモン合成を抑制する主作用のほか,弱い免疫抑制効果も報告されている.また大量のPTUは末梢組織でT4からT3への転換を抑制する(MMIにはこの作用はない).近年,作用効果力と副作用の観点から,PTUよりMMIの方が推奨されている.作用効果は甲状腺内に過剰に貯蔵されていたホルモンが減少してから現れるので,通常投与開始後1~2週間を要する.初回量は必要十分量(MMIなら通常15 mg/日,重度のBasedow病には30 mg/日,PTUなら300 mg/日)を投与し,症状が改善しホルモンレベルが正常化するに合わせて漸減する.血中遊離型T4,T3が正常域にあるように保ちながら1〜2カ月ごとに減量し,MMI 5 mg,PTU 50~100 mgになったらそれを維持量とする.少なくとも1年以上,多くは数年間投与し続けることが必要になる.投薬を中止する時期の決定は,明確な指標がないために難しいが,TRAbの陰性化や甲状腺腫の縮小などが参考条件としてあげられている.投薬中止の十分条件が確立しておらず,再発もしばしばみられるため,投薬中止にあたっては患者への十分な説明と,中止後の定期的な診察が必要である.
 副作用は投与開始後2〜3カ月以内に生じることが多い.しばしばみられるものは皮疹,じんま疹(発生頻度2~5%)で,軽症の場合は他方の抗甲状腺薬に切り換え,抗ヒスタミン薬を併用して治療を継続するが,重症な場合は薬物を中止しなければならない.このほか,軽度肝障害の頻度も高い.重篤な副作用として特に注意が必要なものに無顆粒球症がある.頻度は高くない(0.2~0.5%)が,突然生じることが多いため予測は困難である.患者には,誘因なく発熱,咽頭痛の症状が現れたらすぐ医療機関を受診し,白血球数,顆粒球数を測定してもらうよう十分説明しておく.無顆粒球症が疑われたら,直ちに抗甲状腺薬を中止し,G-CSFを投与する.抗甲状腺薬の種類を変更して継続することは厳禁である.また突然発症する無顆粒球症とは別に,徐々に顆粒球が減少することもある.中止しなければならないレベルに達することもあるため,定期的に白血球数を調べることも必要である.このほか,特にPTUでは治療中に抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性となり,ANCA関連血管炎が出現することもある.これはPTUの長期投与中に起きることが知られている.またPTUの非常に重篤な肝障害も問題となっている.
2)手術療法:
外科的に甲状腺組織を切除し,過剰の甲状腺ホルモン産生をなくす治療法である.抗甲状腺薬に抵抗性の難治性Basedow病,副作用のため抗甲状腺薬使用ができない場合,甲状腺腫が巨大な患者,甲状腺癌の疑われる結節合併例,あるいは若い患者で早くBasedow病を直すことが望ましい場合などが適応となる.これまで術後の甲状腺機能が正常に経過することを目指して,甲状腺亜全摘術(subtotal thyroidectomy)が行われてきたが,数年後には機能低下症に陥ることが多く,逆に再発もしばしばみられた.そのため欧米では,Basedow病を完全に治してしまうために,甲状腺全摘術が推奨されている.わが国でも最近は,甲状腺(準)全摘術が多くなってきた.この場合は術後甲状腺機能低下症となるため,甲状腺ホルモンの補充が必要である.外科的手術療法を行う場合に絶対に必要なことは,患者の甲状腺機能を術前に十分正常化しておくことである.甲状腺機能が高い状態で手術を行うと,甲状腺クリーゼ(後述)を起こす危険性がある.抗甲状腺薬に加え,術前10日間ほど大量の無機ヨウ素(40~80 mg/日)を投与して甲状腺の血流量を減少させる.手術の合併症として反回神経麻痺,副甲状腺機能低下,出血などがあり,手術は熟練した内分泌外科医によってなされるべきである.
3)131I-内用療法:
内科的治療が困難な症例で,手術治療を希望しない患者が対象となる.妊婦,授乳婦,妊娠している可能性のある女性,あるいは近い将来(6カ月以内)妊娠希望の女性は絶対禁忌であり,重度の甲状腺眼症や18歳以下の患者も原則禁忌である.施行する1週間ほど前から食事のヨウ素制限を行い,4~7日前から抗甲状腺薬を中止する.あらかじめ超音波検査などで甲状腺重量を換算して求め,甲状腺1 gあたり100~150 μCi,甲状腺あたりの吸収線量が100 Gy程度となる131Iを経口投与する.効果発現には1〜2カ月を要するが,同じ投与量でも効果の程度には個人差が大きい.最近は外科的切除術と同様,多めの131Iで確実に機能低下症にすることが行われる.投与1〜2週間後に放射性甲状腺炎が生じ,著しい甲状腺中毒症となることがある.甲状腺機能亢進症が高度な場合は,あらかじめ抗甲状腺薬で機能を少し下げておく.
4)その他:
交感神経の亢進による甲状腺中毒症状を緩和するため,β遮断薬が併用される.頻脈,振戦に有効であるが,甲状腺ホルモンの合成・分泌に作用するものではない.甲状腺切除術の前や急速にホルモン分泌を抑制する必要のあるときは,無機ヨウ素が抗甲状腺薬に併用される.ただし無機ヨウ素の効果は2週間から1カ月でみられなくなる(escape現象)ことが多い.[中村浩淑]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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