聴診器(読み)チョウシンキ

デジタル大辞泉 「聴診器」の意味・読み・例文・類語

ちょうしん‐き〔チヤウシン‐〕【聴診器】

聴診に用いる器具。1819年、フランス医師ラエネックが考案し試用患者のからだに当てる部分と医師が耳に当てる部分と、それをつなぐ管とからなる。

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精選版 日本国語大辞典 「聴診器」の意味・読み・例文・類語

ちょうしん‐きチャウシン‥【聴診器】

  1. 〘 名詞 〙 呼吸音、胸膜音、心音胎児心音などを聴診する器具。一八一九年フランスの医師ラエネクがノートを筒形にまいたものを用いたのが最初。現在は両耳孔に入れる部分と患者に当てる部分をゴム管や合成樹脂管で連結する双耳式聴診器がおもに用いられている。
    1. [初出の実例]「鞄から聴診器を出して、胸の其処此処と当てて見た」(出典:生(1908)〈田山花袋〉一一)

聴診器の語誌

双耳式聴診器は、一九世紀中頃アメリカ人医師、カンマンが発明。幕末に日本に伝わり、「測胸器」「聴胸器」と呼ばれた(「医語類聚(一八七二)」)。その後、ドイツ語の訳語として「聴診」(「独逸医学辞典(一八八二)」)が造られ、「聴診器」と改称された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「聴診器」の意味・わかりやすい解説

聴診器
ちょうしんき

患者の体内で発生する自然の振動を耳で聴いて診察し、診断の手段に役だてる方法を聴診法といい、その際に用いる器具が聴診器である。患者の体に直接耳を当てて振動を聴くことは、古代エジプトや古代ギリシアでも行われたが、現在の聴診法の基礎を築いたのは、フランスの医師ラエネクで、1819年、児戯にヒントを得てノートを筒形に巻き、聴診に試用したのが始まりである。

 聴診器には、管状(単耳)と双耳とがある。管状聴診器は均質の剛体でつくられた漏斗(ろうと)で、幅広い端を体壁に、細い他端を耳に当てる。代表的なものにトラウベ型聴診器があり、音の性質が変化しないため、過去には好んで用いられたが、現在では産科での聴診に用いられるにすぎない。双耳聴診器は現在もっとも普通に用いられる聴診器で、振動を集める集音部と、これを耳に伝える管の部分からなり、音を両耳に伝えて聴き取るところからこの名がある。1955年ころまでは、集音部と耳に挟む部分が象牙(ぞうげ)あるいはエボナイト製、管の部分がゴム製という型がよく用いられたが、現在ではこれらの材料に、金属人造ゴム、合成樹脂製品を用いたものが多い。とくに集音部として膜型と漏斗型の両者を備え、必要に応じてひっくり返して使い分けられるものが好んで用いられている。

 聴診器により胸部、腹部、頸(けい)部、四肢などを聴診する。心臓については、心音(正常心音、過剰心音)、心雑音、血管雑音など、肺については呼吸音、ラ音(気管・気管支を空気が通過するときに認められる雑音)、摩擦音、声音伝導など、腹部では腸管蠕動(ぜんどう)音、血管雑音、胎児心音、子宮雑音などを聴取する。心音を聴取することは、心疾患の診断、とくに心臓弁膜症、先天性心疾患の診断には絶対不可欠である。肺の聴診では気管支炎、肺炎、肺結核、肺腫瘍(しゅよう)、気管支喘息(ぜんそく)、胸膜炎、気胸などの診断に役だつ。腹部の聴診では腸管の蠕動に伴う腹鳴(グル音)が聴かれるが、腸管に通過障害があると亢進(こうしん)し、麻痺(まひ)性腸閉塞(へいそく)では消失する。また、腹部大動脈瘤(りゅう)などでは、相当する部位に血管雑音が聴かれる。産科でのトラウベ型聴診器による腹部聴診では、胎児から発する胎児心音、臍帯(さいたい)雑音、胎動音、母体から発する子宮雑音、大動脈音、腸雑音などを聴取しうる。

[井上義朗]

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改訂新版 世界大百科事典 「聴診器」の意味・わかりやすい解説

聴診器 (ちょうしんき)
stethoscope

聴診を行うために身体の外側から音を聴くための用具。1816年フランスのR.T.H.ラエネクによって発明された。それ以前の聴診は身体に直接耳を当てて聴く方法(直接聴診法)であった。丸太の端を釘でこすり,伝わってくる音を反対側の端に耳を当てて聴いている子どもたちの遊びからヒントを得たラエネクが,厚紙を巻いて作った円筒を患者の胸に当てて心音を聴診したのが初めといわれる。彼は木製の筒を作り,それにギリシア語で〈胸stēthos〉と〈注視することskopos〉を意味する言葉を結びつけてstéthoscopeという名を与えた。そして膨大な症例を聴診し,その音を記録して,死後の解剖所見との対比を行い,19年《間接聴診法について,あるいは,主としてこの新検査法による肺および心疾患の診断法について》(《間接聴診法》と略称)という論文を発表し,今日の聴診器を使った聴診法の基本を確立したのである。その後,X線が発見されるまでの1世紀間,間接聴診法は打診法とともに胸部を検査するための唯一の方法であった。

 聴診器は胸壁や身体表面のわずかな振動を空気の振動に変え,効率よく耳まで伝える道具である。ラエネクの木製の聴診器に似た1本の筒型のもの(単耳型)は,妊婦の腹部の上から胎児の心音を聴くための〈トラウベ聴診器〉として今日でも使われている。今日最も広く使われている両耳で聴く型のもの(双耳型)は,54年アメリカのカンマンGeorge Philip Cammann(1804-63)によって発明された。これは,身体表面の振動を音に変える役目をするヘッドの部分と,音を弱めずに耳まで導くためのゴムや高分子材料を用いたチューブとからできている。ヘッドには,小さな椀をふせたようなベル型のタイプと,薄い振動板を張って音を拾う膜型のタイプとがある。膜型のほうがより高い音を拾い,目的によって使い分ける。しかし,今日の音響機器で重要視される周波数特性という点からみると,いずれの聴診器もヘッドやチューブ共振点が心音や肺音の周波数分布領域である1000Hz以下にあって,厳密な意味で特性のよい音響変換器とはいえない。最近では,ヘッドの部分を一種のマイクロホンにして,電気的に音を増幅して聴く電気聴診器なども開発されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「聴診器」の意味・わかりやすい解説

聴診器
ちょうしんき
stethoscope

心音,呼吸音,動脈音,腸音,胎児心音などを聞き取る診察用具で,患者の胸壁に当てる部分,医師の耳にはめる部分,両者をつなぐ管から成っている。 1819年フランスの医師 R.ラエネック (1781~1826) がこれを発明するまでは,医師は自分の耳を直接に患者の身体に当てて聞いていた。胸当て部分には,象牙などを深く彫ってつくったベル型と,金属などの枠にプラスチックや金属の薄膜を張った膜型とがある。管状単耳型のものは,おもに妊婦の腹壁に当てて胎児心音を聞くのに用いられる。最近は音を増幅してスピーカを通じて多数の人に聞かせる電子聴診器もある。

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百科事典マイペディア 「聴診器」の意味・わかりやすい解説

聴診器【ちょうしんき】

胸・腹部内に発生する音を聴取するための器具。ラエネクが発明。呼吸音,心音,胎児心音,腸音などは病気により異常音を呈することが多いので診察に重要。管状と双耳式があるが,一般にはほとんど後者が用いられ,微音を拡大聴取する微音聴診器や電気聴診器もある。

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世界大百科事典(旧版)内の聴診器の言及

【医療】より

… 聴診昔の医師は,患者の胸に直接耳をあてて,心音や呼吸音を聴取していた。聴診器は,フランスの医師R.T.H.ラエネクによって考案されたものであるが,その後多数の学者が改良を加え,今日のような両耳用の聴診器が生まれた。聴診器は主として肺音,心音,血管音を聴取し,これらの病的変化を知るために用いられる。…

【ラエネク】より

…16年太った婦人を診察する際,小児の遊戯からヒントを得て,紙を巻いて管の形にし,それを胸に当てて音を聴いた。これが聴診法の初めであるが,のち木製とし聴診器stéthoscopeと名づけた。これは打診法についで物理的診断法の新生面を開いた著名な業績で,その成果を19年《間接聴診法De l’auscultation médiate》と題して公刊した。…

※「聴診器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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