亜急性甲状腺炎(読み)あきゅうせいこうじょうせんえん(その他表記)Subacute thyroiditis

六訂版 家庭医学大全科 「亜急性甲状腺炎」の解説

亜急性甲状腺炎
あきゅうせいこうじょうせんえん
Subacute thyroiditis
(内分泌系とビタミンの病気)

どんな病気か

 甲状腺炎症が起こる病気で、全経過が2~4カ月くらいで急性と慢性の中間なので、亜急性甲状腺炎と呼ばれています。

原因は何か

 ウイルスの感染と考えられていますが、証明はされていません。

症状の現れ方

 甲状腺の部位(首の前)に痛みを感じます。前駆症状として、かぜのような症状があり、2~3週間してから急に発症します。

 特徴的なのは首の痛みで、甲状腺に自発痛や圧痛が認められますが、患者さんは耳介(じかい)後部や後頭部まで痛くなるので、神経内科整形外科耳鼻科、歯科などを受診することもよくあります。

 痛みは、あくびをしたり首を伸ばしたりするとちょっと痛いといった程度のものから、少し首に触っただけで飛び上がるほど痛いといったものまでがあります。甲状腺は硬くはれて、押すと痛みがあります。また、痛い場所が左右に移動することがあります。熱は、微熱から40℃近い高熱が出ることまであります。

 甲状腺の破壊の程度が激しいと甲状腺ホルモンが血液中に流れ出すので、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)の症状、とくに強い全身の倦怠感(けんたいかん)、動悸、手の震えなどが認められ、重い病気になったという感じがします。しかし、甲状腺にたまっているホルモンはせいぜい1カ月分くらいなので、甲状腺機能亢進症の症状はやがて自然におさまります。甲状腺機能亢進症のあと一時期、機能低下症になってから正常になることもあります。

検査と診断

 特有な症状があるので、甲状腺に痛みがあることに気がつけば診断は容易です。しかし、甲状腺内にある小さな腺腫(せんしゅ)のなかに出血して血豆のようなシスト嚢胞(のうほう))ができると似たような痛みを起こすことがあります。超音波断層検査で痛みの部位に低エコー部が確認できれば、亜急性甲状腺炎と診断できます。また血液検査では赤沈、CRPなどの炎症反応が陽性になります。

 甲状腺の中に蓄積されているホルモンが血中にもれると甲状腺ホルモンが高値になり、甲状腺刺激ホルモンTSH)が低値となることがあります。この結果はバセドウ病と同じですが、TSHが測定限界以下にまで下がることは少なく、バセドウ病の原因物質であるTSHレセプター抗体(TRAb)が陰性なので、バセドウ病と区別できます。

治療の方法

 自然に治る病気なので対症療法が主です。熱と痛みに対してはサリチル酸製剤を投与します。痛みがひどく重症な時は、副腎皮質ステロイド薬を投与することもあります。この場合は痛みや発熱は1~2日で消えますが、薬の減量や中止が早すぎると症状が再燃するので、比較的長期に服用することになります。

 動悸に対しては、β(ベータ)遮断薬が使われることもあります。

病気に気づいたらどうする

 特徴的な症状がある病気なので比較的わかりやすいのですが、誤診されることも多い病気です。甲状腺に痛みがある時は、亜急性甲状腺炎ではないかと医師に聞いてみるのもよいでしょう。

阿部 好文

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「亜急性甲状腺炎」の解説

あきゅうせいこうじょうせんえんでゅくぇるばんこうじょうせんえん【亜急性甲状腺炎(デュ・クェルバン甲状腺炎) Subacute Thyroiditis】

[どんな病気か]
 甲状腺に急性の炎症がおこり、細胞が破壊されたために、甲状腺内に蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に多量にもれ出し、一時的な甲状腺中毒症をおこす病気です。
 脈が速い、汗をかく、手指が震える(振戦(しんせん))などの症状がみられるほかに、くび(甲状腺)に痛みをともなう硬いしこり硬結(こうけつ))があり、発熱など、全身の急性な炎症症状が現われます。
 これらの症状が消失して数週間たつと、血液中の甲状腺ホルモンは正常化し、2~5か月で自然に治ります。
●病気になりやすい人
 病気になりやすいのは、だんぜん女性で、なかでも30歳代以上の人が90%を占めます。中年の女性におこりやすい病気だといえます。
 どの季節でも発病しますが、夏にやや多くみられるようです。
[症状]
 激症型では、38~39℃の高熱が出て、甲状腺の一部にしこりができ、強い痛みがあります。痛みは耳の後部でも感じます。これを痛みの放散ほうさん)といいます。
 中等症では、微熱が続き、全身のだるさ(倦怠感(けんたいかん))がありますが、甲状腺の痛みはそれほど強くありません。
 軽症では、甲状腺のしこりがあるだけで、熱も痛みもありませんが、指で触れると痛みを感じます。
 いずれにしても、日数がたつうちに、しこりはやわらかくなり、縮小し、やがて消失します。
[原因]
 原因として、甲状腺へのウイルスの感染が、もっとも有力視されています。
 血液を調べると、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、アデノウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルスなどを抗原とする抗体(こうたい)が増えており、病状が治まるにつれて抗体の量が減ってくる(経過とこれらのウイルスに対する抗体の量に関係がある)と報告されています。
[検査と診断]
 発病の初期に、血液をとって検査すると、血液沈降速度(けつえきちんこうそくど)(赤血球沈降速度(せっけっきゅうちんこうそくど))がきわめて速くなり、C反応性たんぱく(CRP)が陽性であるなど、炎症があるとみられる結果が出ますが、白血球(はっけっきゅう)の数は増えていません。
 また、血液中の活性型の甲状腺ホルモンである遊離(ゆうり)トリヨードサイロニン(フリーT3)、遊離サイロキシン(フリーT4)のほか、サイログロブリンが増えます。
 反対に、血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値は低下し、放射性ヨード(123I 、131I)の摂取率(せっしゅりつ)で示される甲状腺のヨードのとりこみがきわめて低いという特徴があります。
 甲状腺の組織をわずかにとって顕微鏡で調べると(生検(せいけん))、甲状腺ホルモン分泌細胞(ぶんぴつさいぼう)(濾胞上皮細胞(ろほうじょうひさいぼう))が変性した多核巨細胞(たかくきょさいぼう)がみられます。
[治療]
 治療しなくても、短かければ1か月半、長くとも半年で完全に治ります。
 初期に、ステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)を使用すると、発熱、痛みなどの症状を軽くするため有効ですが、非ステロイドの消炎鎮痛薬(しょうえんちんつうやく)が使われることもあります。
 ふつう、後遺症はありませんが、ときに甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)(「甲状腺機能低下症とは」)になることもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内の亜急性甲状腺炎の言及

【甲状腺】より

…甲状腺機能亢進症を起こす病気はいくつもあるが,日本ではバセドー病が圧倒的に多い。ほかには,甲状腺結節(腺腫)がホルモンを過剰に分泌するプランマー病,炎症による破壊のため蓄えられていた甲状腺ホルモンが血中に流出する亜急性甲状腺炎の病初期,まれに脳下垂体などの腫瘍からの甲状腺刺激ホルモンの過剰分泌,絨毛(じゆうもう)性腫瘍からの甲状腺刺激物質の分泌,さらに甲状腺ホルモン剤の大量摂取による甲状腺機能亢進症がある。甲状腺ホルモンは種々の臓器に働き,その代謝回転を速める。…

※「亜急性甲状腺炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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