改訂新版 世界大百科事典 「n-π*遷移」の意味・わかりやすい解説
-π遷移 (エヌパイせんい)
n-π* transition
孤立電子対の軌道(n軌道)から空のπ電子軌道(π*軌道)への電子遷移。孤立電子対は化合結合にあずからないので,その軌道をn軌道(nはnon-bonding,すなわち非結合性の略)という。C=O,N=O,NO2,N=N,C=S等の基を含む化合物はn軌道とπ軌道をもつので,この遷移が光吸収スペクトルに観測される。一般にn軌道は被占π軌道に比べて高いエネルギー準位にあるので,この遷移のエネルギーはπ-π*遷移のエネルギーより小さく,対応する吸収帯はスペクトルの長波長側に現れる。またn軌道とπ*軌道の重なりがないので,その吸収強度は著しく小さい。溶液のスペクトルにおいては,溶媒の誘電率を増すと,n-π*遷移による吸収帯は短波長側へ移動する(青方偏移)が,π-π*遷移による吸収帯は長波長側へ移動する(赤方偏移)ので両者を区別することができる。n-π*遷移,π-π*遷移などを測定,解析することによって有機化合物の分子構造の決定などに利用される。
執筆者:原田 義也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報