赤色偏移またはレッドシフトともいい,スペクトル線の波長が,ある種の原因によって長波長側にずれることをいう。これと逆に短波長側にずれることを青方偏移blue shift(ブルーシフト)という。化学における例として,無極性溶媒中の溶質のスペクトルは溶媒の屈折率が増すと一般に長波長側にずれる現象がある(溶媒効果)。また分子の吸収スペクトルは,その化学構造の変化に伴って長波長側にずれることがある(深色効果)。
執筆者:原田 義也
天体の赤方偏移の原因は,通常は光源が観測者に対して後退運動をするためのドップラー効果と解釈される。すなわち,本来の(静止光源からの)光の波長λが⊿λだけ増した場合に,⊿λ/λ=z(これを偏移度という),光源の後退速度をv,光速度をc,v/c=βとおけば,で,β≪1の場合にはz≒βとなる。運動が視線に直角の場合はドップラーの横効果で,となる。宇宙の膨張による場合は,(1+z)は現在と発光時との宇宙の尺度の比に等しく,z≪1ならばzは天体の距離に比例する。これがハッブルの法則である。1983年現在,最大のzはPKS 2000-330というクエーサーの1+z=4.78で,距離は発光時には40億~50億光年,現在はその4.78倍と推定される。宇宙の背景放射(3K放射)は,もと3000Kだった黒体放射が宇宙の膨張によって波長が103倍に偏移した結果だと解釈される。一般相対性理論によれば,強い重力場から出る光にも赤方偏移が起こる。この場合の波長の比は光源と観測者との固有時の歩度に反比例するので,zは星の質量を半径で割った商に比例する。太陽の光ではz=2×10⁻6,シリウスの伴星(白色矮星(わいせい))ではz=2×10⁻4が期待されるが,観測的確認は困難である。最近,あるX線星の鉄の高電離イオンの吸収線に関して,ブラックホールの重力によって波長が1.6倍に偏移しているとの解釈が報告されている。
執筆者:大沢 清輝
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電磁波などの波の波長が、なんらかの原因で長くなること。可視光の波長が延びると赤くなるので赤方偏移とよんでいるが、それ以外の波長の波では、赤色とは直接の関係はない。赤方偏移の原因としては、ドップラー効果、強い重力場、宇宙膨張があり、それぞれドップラー赤方偏移、重力赤方偏移、宇宙論的赤方偏移とよんでいる。
ドップラー赤方偏移は、波を出す波源が、観測者から遠ざかる方向に運動していたり、観測者が波源から遠ざかると生ずる。反対に波源が近づくと波長が短くなり青方偏移が生ずる。近づいてくる車のサイレン音が高く聞こえ、遠ざかる場合は低く聞こえるのはドップラー効果のためである。電磁波の場合、ドップラー効果は特殊相対論的効果として現れる。
強い重力場中、たとえば中性子星の表面においては、時間の進み方が遅れるという一般相対論的効果がある。このため、強い重力場中の波源の振動は、外からみるとゆっくり振動してみえるので、波長が延びる。これが重力赤方偏移である。
膨張宇宙では空間が延びる。そのため、空間中を伝わる波の波長も延びる。これが宇宙論的赤方偏移の原因である。遠方の銀河が発する光のスペクトル線が波長の長いほうにずれるのは、このためである。
[松田卓也]
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…天体写真乾板上で星のように(すなわち角度で1秒以下の大きさ)見えるが,星ではない。光を波長別に分けるスペクトル写真をとると,ガス状天体に特有の輝線が見られるが,大きい赤方偏移を示している。現在知られているいちばん大きい赤方偏移の恒星状天体はPKS 2000-330という電波源で,その値は3.78である。…
…ふつうの状況では重力はあまり強くなく,ニュートン力学からのずれはきわめて小さいので,その検出は容易でない。(1)重力赤方偏移 曲がった時空における光の伝搬を考察することにより,強い重力場の中で発せられた光が重力場の弱い場所にくると振動数が減少することがわかる。アインシュタインは太陽からくる光にこの効果が現れ,スペクトルが赤いほうへずれること(赤方偏移)を予想した。…
…星や星雲の中には,地球に対して視線方向に非常に大きな相対速度で遠ざかりつつあるものがあり,そのスペクトルを精密に観測すると,特定の原子の線スペクトルがドップラー効果によって赤の側(長波長側)にずれていることがわかる。これを赤方偏移といい,そのずれの大きさから,その星と地球の間の視線方向の相対速度を求めることができる。 マイクロ波のドップラー効果は航空機や自動車の速さの測定に応用されている。…
※「赤方偏移」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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