日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ラオコーン(ギリシア神話)
らおこーん
Laokoon
ギリシア神話でトロヤのアポロン(またはポセイドン)の神官。神の戒めを無視して妻帯したため、あるいは神像の前で妻と交わったため、アポロンの怒りを買う。トロヤ戦争の10年目、ギリシア軍は勇士たちを内部に潜ませた巨大な木馬を残し、トロヤから撤退すると見せかけた。そのときトロヤ人のある者は、城壁を壊してでもこれを城内に運び入れてアテネ神に奉献するべきであると主張し、ある者は木馬の内部には奸計(かんけい)が隠されているので、焼き捨てるか断崖から海に投じるべきだと主張した。ラオコーンは後者の説で、彼は木馬の腹に槍(やり)を突き刺したため、これを怒ったアテネ、あるいはかつての涜神(とくしん)行為を罰しようとしたアポロンにより、2匹の海蛇が送り込まれて、息子たちが、ついでラオコーン自身が絞め殺された。これを見てラオコーンの説が偽りだと信じたトロヤ人は、木馬を城内に引き入れたため滅ぼされた。
バチカン美術館にある有名な『ラオコーン群像』の彫刻は、紀元前1世紀のロドスの彫刻家、アゲサンドロス、ポリドロス、アテノドロスの合作である。またレッシングの評論『ラオコーン』(1766)は、この群像から出発して造形芸術と言語芸術の特性と限界を論じ尽くしたものである。
[中務哲郎]