木製の馬の玩具。大型のものは子どもが乗って遊ぶ。〈トロイアの木馬〉の伝説があるように古くからあった。ヨーロッパでは19世紀初期に,木馬の脚部に弓形の枠を取りつけ,前後に揺り動かして,これにまたがっている子どもに馬が走っているような感じを与えるロッキング・ホースrocking horse(揺り木馬)がつくられ,流行した。このほか動かないもの,手で揺り動かすもの,車つきで引いて移動させるものなどがある。木馬を数多く取りつけ回転させて遊ばせるのが遊園地などに設置されているメリーゴーラウンドである。そのほか小銭を入れると馬が上下に動いて回転する電動式のものがある。厚板に馬首,4本足をつけたもので,最近はプラスチック製が多い。日本にも古くから武家の児童には乗馬練習用のものがあり,木馬と呼んだ。またこれに車をつけて引いて遊ぶ玩具もつくられた。名馬の産地三春地方(福島県)には子育て信仰と結んだ三春駒と呼ばれる木馬(きんま)がある。
執筆者:斎藤 良輔
そりの一種。ただし,雪の上ではなく,土の上で用いる。カシ,ミネバリなどの硬材でつくり,形態ははしご状である。キウマなどとも通称され,ほぼ全国的に分布するが,飛驒・信濃などの山岳地帯に濃密である。用途は主に木材の搬出で,そのため大型のものが多く,長さ2~3mに達するものもまれではない。木馬は,必ずキンマミチ,キウマミチなどと呼ばれる専用通路を通すが,ここには鉄道の枕木のように丸太が並べられている。運搬するときは,荷物を積んだ木馬の先端に人が1人立ち,速度や方向などを調節しながら操ってゆく。これはかなりの熟練を要する作業で,一息に進める距離は2kmほどとされている。起源は相当古く,すでに古墳時代において使用が確認されている。大阪府藤井寺市の仲津媛古墳の陪塚で発見された,修羅(しゆら)がそれである。
執筆者:胡桃沢 勘司
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木製の馬。西欧ではトロヤ戦争のおり、ギリシア連合軍がトロヤ軍を破った伝説に木馬がみられる。19世紀初頭には子供の玩具(がんぐ)として弓形の枠の台に木馬を取り付け、前後に揺り動かすことのできるロッキングホースrocking horseが広く用いられた。また車付きで引っ張ることのできる木馬もみられた。これらのものは、日本でも明治時代から上流家庭に入った。
日本では江戸時代に、武士の子弟の馬術の練習用としての木馬があった。木馬に、手綱(たづな)、障泥(あおり)などをつけ、鐙(あぶみ)の乗り降り、鞭(むち)の当て方を練習した。馬術を習うのに木馬を用いることは中国でもあったといわれている。また木馬は、乗馬に使用する鞍(くら)を掛けておく道具として用いられ、鞍掛とよばれた。
木馬を拷問の道具として使用することもあった。馬の背の形につくったものに罪人をまたがらせ、両足に石を釣り下げた状態にした。
現在、遊園地などにみられる、木馬を何台も取り付けたメリーゴーラウンドmerry-go-roundは、かつて東京・浅草の木馬館にみられ、子供たちに人気を博していた。
[芳井敬郎]
積雪の少ない地方で夏季に用いる木材運搬用のそりの一種で、「きんま」ともいう。カシ、ミズメ、ケヤキ、ナラなどの硬木でつくった2本の親骨に3~5本の横木を取り付けた梯子(はしご)形のそりである。勾配(こうばい)が6度程度を運搬限度とする普通木馬と、十数度まで運搬可能の単軌木馬、ワイヤ木馬などがある。木馬を用いての木材運搬を木馬運材という。直径5センチメートル、長さ1~1.5メートル程度の小丸太あるいは割り木を盤木(ばんぎ)として約60センチメートル間隔に敷き並べた、主として下り勾配の木馬道上を、木馬に木材を積載して人力で引っ張り滑走させ、あるいは滑走を制動しつつ運材する。木馬道は幅員1.2~1.8メートル程度で、路面や桟道の敷設が容易なため、日本の民有林では2キロメートルくらいまでの短・中距離運材に広く用いられた。現在は、集材機やトラクター、林内作業車、多工程同時処理機械などの林業機械の普及と、労働安全上の見地からほとんど用いられなくなったが、小規模民有林の比較的少量・短距離の運材にはいまなお残存している。
[山脇三平]
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…用途は主に木材の搬出で,そのため大型のものが多く,長さ2~3mに達するものもまれではない。木馬は,必ずキンマミチ,キウマミチなどと呼ばれる専用通路を通すが,ここには鉄道の枕木のように丸太が並べられている。運搬するときは,荷物を積んだ木馬の先端に人が1人立ち,速度や方向などを調節しながら操ってゆく。…
…その他,形状・使用目的によって〈箱橇(はこぞり)〉〈駕籠橇(かごぞり)〉〈腰掛橇(こしかけぞり)〉〈馬橇(ばぞり)〉など種類は多い。泥土上あるいは〈きんま道〉とよぶ傾斜道に使う〈土橇(どぞり)〉〈木馬(きんま)〉と称する一種の橇もある。もっぱら木材,石材などの重量物の運搬に使われるもので,人力あるいは牛馬に引かせるものである。…
…
[信仰と習俗]
馬が神聖なものに使用されるという観念から,神霊の乗物としての面が古くからあったことは,日本におけるこの動物に対する考えの一面として注意する必要がある。このため神社に生馬を奉納して飼養し,またその代用に木馬を神前に納め,祭儀に馬をひいて奉仕するといった習俗が広く認められる。生馬や木馬を奉納できぬ階層が板絵を額として納めたのが絵馬の起源であるとの説もある。…
※「木馬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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