僕婢条令(読み)ぼくひじょうれい(英語表記)Gesindeordnung[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「僕婢条令」の意味・わかりやすい解説

僕婢条令 (ぼくひじょうれい)
Gesindeordnung[ドイツ]

Gesinde(僕婢)は下僕,下婢の総称であり,一般に主人の家庭内で生活する身分の低い奉公人を指す。最近に至るまで,農業経営とりわけ農民経営の最も一般的な雇用労働力の形態であった。僕婢は通例未婚の労働力であり,将来独立の家計をもつまでの過渡的労働力といえる。僕婢条令は,僕婢雇用に関する公的規制であり,すでに15世紀以来ドイツの諸領邦で制定されている。内容は,契約期間の最低限度,公定の給与額,食事などの待遇などの規定や,二重契約や契約違反の禁止である。こうした公的規制は,封建的秩序の解体とともに,僕婢のような家父長制的雇用関係が維持できなくなったことを示しており,保護対象には農民も含められている。

 16世紀以降エルベ川以東のドイツでは,領主が農民賦役によって市場向けの大農場を営む,独特な領主制グーツヘルシャフトが形成されるが,この地域では僕婢条令は領主にその所領内の住民に対して僕婢の優先雇用権を認めたり,住民の子弟への直接の僕婢奉公強制を許したりしている。19世紀の初頭以来,ドイツの各領邦では農民解放が実施され,領主・農民関係は解体された。しかし,僕婢条令は,南西部小農地帯を除いてほとんどの領邦で維持された。たしかに,雇用関係の私法的関係化,雇主・僕婢の法の前の平等に配慮され改正されているとはいえ,雇主の僕婢に対する訓育的・優越的地位が認められ,僕婢の契約違反に対する刑事的処罰が残されている。実際,僕婢に対する規制は農村労働者一般に対する規制の礎石としての意味をもちえた。プロイセンの僕婢条令(1854)は,僕婢に対する刑罰規定を農村労働者一般に拡大した。僕婢条令は反体制派の政府攻撃のかっこうの目標となったが,労働力の激しい流動性のもとでは,僕婢条令の実際上の効果はほとんど望めず,ユンカーを中心とした農業経営者が廃止に反対した理由は,そのストライキ禁止規定を失うことを恐れたためであった。1918年にドイツ革命が起こると同時にすべての僕婢条令は廃止された。〈僕婢条令は法的効力を失う。農村労働者に対する特別法も同様に無効である〉(1918年11月12日,人民委員会布告)。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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