(1)泉鏡花の短編小説。1910年1月《新小説》に発表。能役者恩地喜多八は,謡自慢のあんま宗山をこらしめ憤死させたため,能の宗家で養父の恩地源三郎に勘当され,博多節の門付(かどづけ)となり放浪の生活を送る。3年後桑名の旅宿で源三郎と小鼓の名手雪叟が呼んだ芸妓三重は,宗山の娘お袖であり,座敷で三重の舞う《海人(士)(あま)》を教えたのは喜多八だった。雪叟の鼓と源三郎の謡にひきよせられた喜多八の,宿の軒かげで唱和する声が冬の夜にひびく。繊細華麗な筆致で〈芸至上〉の境地をうたいあげ,浪漫美の世界を現出させた鏡花円熟期の代表作である。
(2)戯曲。2幕9場。久保田万太郎の脚色。1940年4月《日本評論》に発表。同年7月,明治座で新生新派により〈泉鏡花追悼公演〉に初演。花柳章太郎,森赫子,大矢市次郎らが出演。原作の幽幻味を生かした名脚色として知られ,以降よく新派の舞台にとりあげられている。ほかに衣笠貞之助,平岩弓枝による脚色もある。
執筆者:藤木 宏幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
4/12 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
4/12 デジタル大辞泉を更新
4/12 デジタル大辞泉プラスを更新
3/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
2/13 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新