日本大百科全書(ニッポニカ) 「アラック」の意味・わかりやすい解説
アラック
あらっく
arrack
インドから東南アジアの広範な地域でつくられる蒸留酒の総称。アラックはアラビア語で汗を意味し、蒸留機から蒸気が凝縮して滴るさまを汗に例えたもので、蒸留は、エジプトに発するといわれる蒸留機ランビキ(アラビア語でアランビック)を用い、伝来の方法によってつくられる。この蒸留技術が名前とともにアジアのほうに伝わったとされている。国によって原料、製造法や通称も異なる。ツバとかトデイというヤシの樹液を発酵させたやし酒を蒸留してつくる方法があり、ルソン島(フィリピン)ではランパークという。また米、糖蜜(とうみつ)にトデイを加えて発酵、蒸留する方法がある。ネパールのロキシーはこの方法と同じ系統の酒で、シコクビエをモルチャー(米やシコクビエを原料とした麹(こうじ))で糖化、発酵させた「チャン」を蒸留してつくる。タイのラオ・ロンは米を主体とし、餅(もち)麹のルクパンで糖化、発酵させ、蒸留してつくる。中国では、元時代(14世紀)の書に、南蛮酒「阿里乞(アリキ)」の蒸留機アランビックが記され、中国のパイチウ(白酒)として広がった。わが国には東西交易により、南蛮酒アラキ(亜剌吉)として伝えられた。
[秋山裕一]