日本大百科全書(ニッポニカ) 「イトアナゴ」の意味・わかりやすい解説
イトアナゴ
いとあなご / 糸穴子
slender sorcerer
[学] Saurenchelys cancrivora
硬骨魚綱ウナギ目クズアナゴ科に属する海水魚。和歌山県、高知県、愛媛県、長崎県の近海、南シナ海、インド洋、地中海、東大西洋に分布する。体は伸長し、尾部では後方に向かって著しく細長くなる。頭部は長く、肛門(こうもん)前長(吻端(ふんたん)から肛門までの長さ)の42~46%を占める。吻は細長く、くちばし状に突出する。前鼻孔(ぜんびこう)は吻端近くにある。後鼻孔は目の中央部の前方にあり、斜めに大きく開く。口は細長くて大きく、目の後縁近くまで開く。上下両顎(りょうがく)および鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)に細かい円錐歯(えんすいし)が列をなして並ぶ。鰓孔(さいこう)は三日月形で、目の後縁のはるか後方の腹側面に開き、目の後縁から鰓孔までの長さはおよそ目の後縁から吻端までの長さに等しい。側線はよく発達し、肛門前側線孔数は27~30。背びれは鰓孔の上方のわずか後方から、臀(しり)びれは肛門の直後から始まり、両ひれは体の後端まで伸び尾びれとつながる。胸びれはなく、鱗(うろこ)もない。体は淡褐色で、尾端部は黒い。全長は約50センチメートルになり、水深185~700メートルにすむ。レプトセファルス(葉形(ようけい)幼生)期を経る。同属のオオイトアナゴS. meteoriは肛門前側線孔数が多くて38~39、頭長が肛門前長の35~39%であることなどで本種と区別できる。属名のSaurenchelysは「トカゲのようなウナギ」を意味する。
[尼岡邦夫 2019年6月18日]