翻訳|larva
多細胞動物の発生過程において,胚期の終了にあたり,みずから捕食して独立の生活を営むようになった段階のもののうち,成体とは異なる体制や行動を示すものをいう。なお,昆虫の場合はこれを幼虫と呼ぶ。
幼生の段階は個体発生の過程に不可欠なものではなく,全動物門を見わたしても,幼生の段階を経る発生様式(間接発生)をとるものはむしろ少数といえる。また一つの動物門をとっても,幼生がごく少数の種においてだけつくられる場合(扁形動物など)や,逆に直接発生をする種のほうが例外的である場合(棘皮(きよくひ)動物)など,さまざまである。このような幼生段階の有無を決める主因は,卵に与えられた卵黄の多少,つまり成体の体制に至るまでの発生過程を維持するにたるだけの栄養が,卵に与えられているか否かにかかっている。
幼生にはさまざまな形のものがあり,それぞれに固有の名まえを与えられているが,それらを七つのグループに大別することができる。より原始的なものから順に個々のグループの性質を見ていこう。
(1)プラヌラplanula幼生 腔腸動物にだけ見られる幼生で,1層の細胞から成る外胚葉の壁に囲まれた腔所を,内胚葉の細胞が満たすだけの簡単な構造をもつ。他の動物における中実胞胚にきわめて似ている(図の1)。
(2)原輪子幼生protrochula 原体腔類として分類される扁形動物(ミュラー幼生,ゲッテ幼生)およびひも形動物(ピリディウム幼生)にみられるもので,原体腔(胞胚腔から発展した腔所)内に内胚葉性の盲管と小さな神経節を一つそなえた簡単な構造をもち,体表に繊毛をはやして遊泳する(図の2)。
(3)担輪子幼生(トロコフォラtrochophora) 真体腔類,端細胞幹(裂体腔動物)に属する軟体動物および環形動物を中心とする幼生で,消化管は口と肛門で外に開き,原体腔内には浸透圧の調節と老廃物の排出を行う原腎管をそなえ,体表の四つの繊毛管によって遊泳する。神経節は簡単なものでは頭部に一つあるのみであるが,最もよく発達した軟体動物では,頭部,側部,足,体壁,内臓,口の六つをそなえたものがある。この幼生の中胚葉は外胚葉に由来し,内胚葉由来の成体の中胚葉とは性質を異にする。後者の母細胞(端細胞)は,幼生の期間中は原体腔内で待機し,変態に際して初めて活動を開始する。この幼生の体制は原体腔類の成体の体制に匹敵するものであり,みずからのグループの成体のそれに比べて,一段原始的なものとして位置づけられる(図の3)。
(4)ノープリウスnauplius幼生 節足動物,甲殻類の幼生で,幼生の時期からすでに真体腔である腎管(小顎(しようがく)腺,触角腺などと呼ばれている)を有する。この意味でこの幼生の体制は,軟体動物や環形動物の成体のそれに匹敵するということができる。一方,端細胞が幼生の後部に待機し,変態と同時に活動を開始して成体の胸部以下の体節をつくり,幼生の体は成体の頭部として保存されるところは,トロコフォラ幼生の場合と似ている(図の4)。
(5)昆虫の幼虫 この幼生は,体制の進化的な位置づけの基準となる中胚葉の発生や存在様式,変態の様式などにおいて,他の節足動物とは著しく違っている。大きさも両生類のオタマジャクシ幼生に次いで巨大であり,肉眼でみられるのはこの両者だけである。このような特徴は陸上生活への適応の結果とみることができ,進化的にも示唆に富んだ存在である(図の5)。
(6)双面子幼生(ディプリュールラdipleurula) 棘皮動物,腕足動物など真体腔類,腸体腔幹(腸体腔動物)に属する動物群の幼生で,原則として前,中,後の三つの体腔をつくることを特徴とする。神経はほとんど発達せず,神経節ももたない。この幼生の中胚葉はすべて内胚葉由来であり,その意味でこの幼生は,端細胞幹に属する動物群の成体よりも進化的に進んだ体制をもつといえる(図の6)。
(7)オタマジャクシ幼生 両生類のほか,原索動物のホヤ類にもみられる。背側正中線上を体の前後軸に沿って走る脊索と神経管を特徴とし,その両側によく発達した筋肉が走っている。この体制は脊椎動物の体制の原形を成すものであり,幼生の体制としてはいうまでもなく,他のどの形のものよりも複雑である(図の7)。
執筆者:団 まりな
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
後生動物の個体発生において、胚(はい)と成体との間の時期をいい、通常は、成体と著しく異なった形態と生活様式をもち、変態によって成体になる場合の、変態以前の時期をいう。昆虫など陸生節足動物の幼生は、とくに幼虫とよばれる。脊椎(せきつい)動物では、カエルのオタマジャクシ、ウナギ類のレプトセファルスなどが幼生である。無脊椎動物でも、幼生には特別の幼生名が与えられているものが多い。たとえば、ウニのエキノプルテウス、クモヒトデのオフィオプルテウス、ナマコのアウリクラリア、ヒトデのビピンナリア、ホウキムシのアクチノトロカ、ウズムシ類のミュラー幼生、環形動物のトロコフォラ(担輪子幼生)、甲殻類のノウプリウス、ゾエアなどである。変態に際しては、通常、幼生の中の特殊な原基が発達して成体の形をつくり、幼生期にみられる多くの器官は変態時に消失する。このような器官を幼生器官といい、オタマジャクシの尾やえら、エキノプルテウスの腕や繊毛帯、昆虫の幼虫の気管えらなどがこれにあたる。幼生の比較形態によって、動物の系統的な位置が示唆されることが多く、動物の発生様式と幼生の比較形態の研究は、系統分類学上きわめて重要な方法である。とくに、寄生性の動物のように成体が著しく退化した体制を有する場合には、幼生の形態が系統分類上の位置を決めるための決め手となることが多い。
幼生の生殖器官は、一般には未発達であるが、幼生形のまま生殖巣が成熟し繁殖するネオテニー(幼形成熟)の例も知られている。よく知られるネオテニーの例としては、アホロートル(メキシコサンショウウオ)があり、本種は原産地では、変態をおこさず幼生の形態を保持したまま性的に成熟し繁殖する。しかし、この種を原産地から移して別の環境のもとで飼育すれば、変態して成体となることがあり、その原因は、甲状腺(せん)ホルモンの形成と関連して考えられている。一方、幼形成熟と似た語として幼生生殖があるが、これは幼形成熟とはまったく異なり、幼生体内の胚細胞(卵細胞)が単為生殖を行う場合をいい、吸虫類やタマカの幼生でみられる現象である。
[雨宮昭南]
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…狭義には完全変態昆虫の卵とさなぎの間の時期をさし,不完全変態昆虫の卵と成虫の間の時期は若虫nymphという。英語の対応する語にlarvaがあるが,これはすべての無脊椎動物の幼生および変態をする脊椎動物の成体の前の世代(オタマジャクシなど)の総称であり,幼虫のみをさすのではない。 幼虫は多くの場合,食性,生息場所など親とは異なる生態的地位を占め,成体集団とは競合しないことから,新しい生息環境への侵入と定着に適応した種の分散の機構の一つとも考えうる。…
※「幼生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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