江戸後期の歌文集。加藤千蔭(ちかげ)著。初編は1802年(享和2)、二編は1808年(文化5)刊。千蔭は万葉調の歌を提唱した賀茂真淵(かもまぶち)の門人であるが、師の詠風には従わず、古今調に基づく優麗温雅な歌風を特徴とし、都会的な歌が多い。叙情よりも叙景を得意とし、「夜をこめて水脈(みを)ひきのぼる舟の帆の霞(かすみ)にしらむ刀根(とね)の河面(かはづら)」などの作にその特質をうかがうことができる。書名の由来は、1801年、富小路貞直(とみのこうじさだなお)から歌を求められたとき、「武蔵野(むさしの)や花数ならぬうけらさへ摘まるゝ世にもあひにけるかな」の歌を呈したことによる。
[揖斐 高]
『野村宗朔校『校註国歌大系16 近代諸家集2』(1929・国民図書)』
…【小泉 武栄】【小木 新造】
[歌枕]
《万葉集》巻十四,東歌にはここに生きる素朴な民衆の生活が歌われる。固有の植物としては〈うけらが花〉(キク科の多年草)がある。《古今集》巻十七の〈紫の一本(ひともと)故に武蔵野の草はみながらあはれとぞ見る〉(読人しらず)以降,〈紫〉が武蔵野の代表的植物として文学にあらわれる。…
※「うけらが花」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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