改訂新版 世界大百科事典 「ウンバンダ」の意味・わかりやすい解説
ウンバンダ
umbanda
ブラジルにおけるアフリカ色の濃い心霊主義的習合宗教の総称。語源的には医師,呪医,祭司の意。おもな習合要素はアフリカ宗教,カトリック,心霊主義,ブラジル原住民の宗教である。16世紀以来砂糖プランテーションの労働力として,おもにアフリカ西海岸から強制移住させられた黒人奴隷の宗教が母体となってはいるが,新大陸の条件下で大きく変貌し,他宗教との習合も激しいので,一概にアフリカ宗教と呼ぶのは適当でない。アフリカにおける出自文化の差も大きく,スーダンのヨルバ文化の影響の強いのをカンドンブレ,コンゴ,アンゴラのバントゥー色の濃いのをマクンバと呼ぶ。またインディオ文化の要素が強いのをカンドンブレ・デ・カボクロという。アラン・カルデックAllan Kardec(1804-69)流の心霊主義の感化が強く,純心霊主義からアフリカ色濃厚なものまで連続体をなしている。また地域差も大きく,リオ・デ・ジャネイロやサン・パウロではマクンバ,バイアではカンドンブレ,レシフェではシャンゴーと呼ぶことが多いが,激しい人口移動によりさらに複雑な展開がなされている。そしてカトリックの聖人たちと習合したアフリカの神々オリシャが大きな地位を占める。例えばオシャラはキリスト,オグンは聖ゲオルギウスとエシュもある程度まで悪魔と同一視されるが,至上神オロルムの影は薄い。祭場はテレイロといい,都市の周辺部に多い。これをパイ・デ・サント(男)かマイ・デ・サント(女)が主宰する。彼(または彼女)の指揮下に祭場にオリシャが降臨,フィーリャ・デ・サントと呼ぶ霊媒らに憑霊して信者と接触し,悩み・相談事を聴いたり,指示・教訓を与える。各テレイロは独立していて,宗派としての発達はなく,弱いが連盟化の動きはある。工業化・都市化等の急激な社会変動下で,問題の多い庶民に具体的解決法を教えるため,ウンバンダは急速に伸びている。自己の宗教としてこれを挙げる者は少なくても,テレイロに通う者は白人・黒人を問わず,宗教・階級を超えて広い層にわたっている。
執筆者:前山 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報