日本大百科全書(ニッポニカ) 「エステル記」の意味・わかりやすい解説
エステル記
えすてるき
The Book of Esther
『旧約聖書』中の一書。紀元前2世紀の成立とされ、ユダヤ教の五大祭の一つであるプリム(くじ)の祭りの起源を説明する物語である。物語は、ペルシア王アハシュエロス(クセルクセス1世。在位前486~前465)の王妃に迎えられたユダヤ女性エステルとその養父モルデカイの活躍を描く。大臣ハマンが国内の全ユダヤ人の殺戮(さつりく)を計画し、くじによってその日を決める。ところがエステルの働きによって、アダルの月(太陽暦の3月ごろ)の13日、運命の日にハマンはモルデカイにかわって木につるされ、ユダヤ人に敵意を抱くペルシア人7万5000人が王命によって逆に処刑された。この物語はプリム祭にユダヤ教の会堂で朗読されたが、極端な民族主義的傾向と過酷な復讐譚(ふくしゅうたん)が文学的評価とは別に、宗教書としての本書の存在にさまざまな評価を与えている。
[秋輝雄]