おこ物語(読み)おこものがたり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「おこ物語」の意味・わかりやすい解説

おこ物語
おこものがたり

まじめで賢明な人物でなく、人を笑わせる愚か者などを主人公とした物語。ばか者や思慮の足りない者のことを、「烏滸(おこ)」「尾籠(おこ)」「痴(おこ)」というが、かならずしも後世のその意ではなく、『日葡(にっぽ)辞書』には、「Voconomono(ウオコノモノ) 自由気儘(きまま)で、専横な、しつけの悪い無法者」とある。おかし味を意味するおこ物語が発達してくるのは、平安末期であるが、すでにそれ以前に、『竹取物語』のかぐや姫を取り巻く求婚者の行為や、『伊勢(いせ)物語』の一部、『源氏物語』の末摘花(すえつむはな)や源内侍(ないし)などにその傾向がみえる。そして、平貞文(さだふみ)を主人公とする『平中(へいちゅう)物語』に至ると、「おこ」のおかしみは愚か者に集成され、笑いのみを対象とするようになってくる。庶民仏教の敷衍(ふえん)化のために、13世紀に最盛期を迎える説話文学には、この傾向はさらに著しくなり、笑いも下品になってくる。それでも、『今昔物語集』巻28に集められた愚か者には、まだ今日の阿呆(あほう)とは異なった「おこ」の性格がみられよう。これらの笑いは、近世に入って俳諧(はいかい)、狂歌川柳(せんりゅう)などの主人公に生まれ変わったり、仮名草子『竹斎(ちくさい)』の藪(やぶ)医者と下僕にらみの介の滑稽(こっけい)文学をはしりとして、『東海道中膝栗毛(ひざくりげ)』『浮世風呂(うきよぶろ)』『浮世床』などの、あわて者、ばか者の型をつくりあげている。昔話にも愚か婿話や愚か嫁話、愚か村話など、知らず知らずにおこる愚人譚(たん)の話群が、笑話の基本的パターンに通じて、数多く存在している。

[渡邊昭五]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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