平貞文(読み)タイラノサダフン

デジタル大辞泉 「平貞文」の意味・読み・例文・類語

たいら‐の‐さだふん〔たひら‐〕【平貞文】

[?~923]平安時代の歌人。名は「さだふみ」とも。平貞文歌合主催、歌は「古今和歌集以下勅撰集に26首。「平中へいちゅう」の称で知られ、「平中物語」の主人公好色美男子と伝えられる。平定文。

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精選版 日本国語大辞典 「平貞文」の意味・読み・例文・類語

たいら‐の‐さだふん【平貞文】

  1. ( 「定文」とも。「さだふん」は「さだふみ」とも ) 平安時代の歌人。「平中物語」の主人公で在原業平と「好きもの」の双璧とされた。古今集、後撰集拾遺集に入集。延長元年(九二三)没。

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改訂新版 世界大百科事典 「平貞文」の意味・わかりやすい解説

平貞文 (たいらのさだぶみ)
生没年:871ころ-923(貞観13ころ-延長1)

平安朝の歌人。右近衛中将好風の長男。定文とも記す。父は桓武天皇の皇子仲野親王の孫。874年(貞観16)父とともに臣籍に下り平姓を賜る。内舎人(うどねり),右馬権少允,右兵衛少尉,参河介,侍従,右馬助左兵衛佐を歴任し,従五位上に至る。905年(延喜5),906年に両度の歌合を催し,勅撰集には26首の和歌が選ばれた。中古歌仙36人の中にも数えられて,おそらくその家集を本として貞文の子孫が著した《平中(へいちゆう)物語》に取り込まれた99首の自詠(長歌1首,連歌2首を含む)その他を合わせて114首の和歌を残す歌人であるが,より有名なのは業平の〈在中〉と並んで世の好色者(すきもの)と評判される伝説中の人物〈平中〉である。《源氏物語》の〈末摘花〉の巻にも早く〈平中墨塗譚〉が取り上げられ,《今昔物語集》の〈平中樋洗(ひすまし)譚〉から《宇治拾遺物語》《十訓抄》《古本説話集》《藐姑射秘言(はこやのひめごと)》《しみのすみか物語》《大東閨語》,さらに近代の芥川竜之介の《好色》,谷崎潤一郎の《少将滋幹の母》に至るまで,平中好色滑稽譚は数多いが,貞文その人はきわめて気が弱く父母に従順,女性に永遠のあこがれを抱く純情な性格の持主であった。すべては,叔母が宇多天皇の母班子女王で,その中宮亮(のちには皇太后宮亮)を務めるわがままな立場から,放埒無慚な好色ぶりを発揮し,紀長谷雄の《昌泰元年歳次戊午十月廿日競狩記》に,つぶさに行状の記録されている父好風の評判を,一人息子の貞文がすっかりひきかぶったまでである。
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朝日日本歴史人物事典 「平貞文」の解説

平貞文

没年:延長1.9.27(923.11.8)
生年:生年不詳
平安時代の官人,歌人。定文とも書く。通称は平中。好風の子。祖父は桓武天皇の孫茂世王。貞観16(874)年,父と共に臣籍に下り,平姓となった。寛平3(891)年内舎人,のち三河介,侍従,右馬助などを歴任,従五位上左兵衛佐に至った。途中剥官事件もあったらしく,そのときに詠んだ「うき世には門させりとも見えなくになどかわが身の出でがてにする」が『古今集』に載るが,詳細は不明。延喜5(905)年4月と翌6年1月に『貞文家歌合』を主催,凡河内躬恒も参加した。『古今集』の9首をはじめ,勅撰集に26首入集する。『夫木和歌抄』によると家集があったらしいが,現存しない。また色好みとして名高く,「在中,平中」と,在中将在原業平と並称された。『源氏物語』にも引かれた有名なエピソードに,彼が女の気をひこうと水差しの水を目につけてそら泣きするのに気づいた女が,こっそり墨汁を混ぜておいたので,目のまわりが黒くなってしまった,という話があるが,のちの『今昔物語集』などの説話集で,ままならぬ恋に翻弄される人物として戯画化されてゆく平中の人物像の原型が,すでに『源氏物語』にうかがえるのは興味深い。『平中物語』の主人公とされるが,この物語を実在の貞文の伝記とは認め難い。同書は39章段の和歌説話から成る歌物語で,天徳3(959)年以降の成立。上述した平中を嘲笑する姿勢がみられない点,平中説話を考えるうえで注目される。<参考文献>萩谷朴『平中全講』

(青木賜鶴子)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「平貞文」の解説

平貞文 たいらの-さだふん

?-923 平安時代前期-中期の歌人。
茂世(しげよ)王の孫。平好風(よしかぜ)の子。貞観(じょうがん)16年父とともに臣籍にくだり,平姓となる。従五位上,左兵衛佐(さひょうえのすけ)。平貞文家歌合を主催し,歌は「古今和歌集」以下の勅撰集に26首みえる。好色者(すきもの)として知られ,歌物語「平中物語」の主人公とされる。延長元年9月27日死去。字(あざな)は仲。通称は平中(仲)。定文ともかく。

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世界大百科事典(旧版)内の平貞文の言及

【平中物語】より

…平安朝の歌物語。《平中日記》《貞文日記》ともいうように,平貞文の家集を本として,実録風の歌物語を創作したもの。148首の短歌,2首の連歌,1首の長歌を含む38段の和歌的小話に区分されるが,最終段に付記した富小路の右大臣顕忠の母に関する3首の短歌を持つ和歌的小話の叙述表現よりして,この付記が959年(天徳3)以後,965年(康保2)以前になされた事実が確かめられるので,物語自体の成立はそれ以前と考えられる。…

※「平貞文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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