改訂新版 世界大百科事典 「ガマの油売」の意味・わかりやすい解説
ガマの油売 (がまのあぶらうり)
ガマの油を原料とする軟膏を大道で売る香具師(やし)の一種。この軟膏は,外傷やひび,あかぎれ,やけどなどの治療に効果があるといわれ,軍中膏として用いられた。ヒキガエル(ガマ)が敵に向かったり,ある刺激を加えられたときに分泌する白い液を収集し薬として売られていたもの。しかし,薬としての効用よりも,江戸時代から明治にかけ,縁日や祭りの街頭でおもしろおかしい口上で客を集めて香具師が販売したその口上のおもしろさがむしろ有名である。口先三寸のたんかだけでする商売だけに,その口上のよしあしによってすべてが決する。数あるたんか売の中でもガマの油売は下級宗教者に扮する〈行者ブチ〉という中に入る。凝った扮装でガマから油をとる一部始終を説き,日本のみならず中国の伝説まで引いてガマの霊力を語り,ついには刀をとり出し,切る切らぬと客を引きつけて膏薬を売る。伊吹山と筑波山が有名で,今にその口上を伝える芸人もいる。
執筆者:織田 紘二
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