ヒキガエル(その他表記)toad

翻訳|toad

改訂新版 世界大百科事典 「ヒキガエル」の意味・わかりやすい解説

ヒキガエル (蟇/蟾蜍)
toad

カエル目ヒキガエル科Bufonidaeに属する両生類総称,またはニホンヒキガエルの別名。約31属366種がオーストラリアなど一部を除く世界各地に広く分布する。体長10~15cmの大型種が多く,最大はヒキガエル属Bufoの熱帯アメリカに分布するオオヒキガエルB.marinusやコロンビアヒキガエルB.blombergiの最大体長20cmあまり。しかし南アフリカのローズヒキガエルB.roseiは体長約3cm,東南アジアのモリヒキガエル属Pelophryneなどは2~3cmに過ぎない。一般に体型はずんぐりしており頭部が幅広く胴も太く,後肢が短くてあしゆびの間の水かきは発達が悪い。皮膚はざらざらしており体背面には大小のいぼ状の隆起が散在し,眼の後方には自衛用の耳腺(じせん)が発達する。そして,危険に出会うと四肢を突っ張り頭を下にして,耳腺を敵の鼻先に突き出す。耳腺から分泌される毒液は一般にガマ毒あるいはブフォトキシンと呼ばれ,ブフォタリンなど数種の成分が含まれる。動物の口腔粘膜に付着すると,炎症を起こし,心筋や神経中枢に作用して敵を弱らせる。中国では古来ガマ毒を蟾酥せんそ)と呼んで強心剤に用い,日本でも同様に漢方薬の原料とされる。

 ヒキガエル類は平地の林ややぶなど湿った場所に多く,繁殖期以外は水に入らないが,日本のナガレヒキガエルB.torrenticola,北アメリカのコロラドヒキガエルB.alvarius,東南アジアのミズヒキガエルPseudobufo subasperなどは山地の渓流にすむ。また東南アジアのキノボリヒキガエル属Pedostibesや西アフリカのアフリカキノボリガエル属Nectophryneなどは木にも登る。

 繁殖期には生息地から産卵池まで,数百mから数kmの距離を大群で移動し,ヨーロッパではヒキガエルを輪禍から守る道路標識が立つ地方もある。日本で〈蛙(かわず)合戦〉と呼ばれるように,池などで大群が集まって鳴声を立てながら大騒ぎのすえ,水中にひも状の長い卵塊を産みつける。卵は小さく,1匹の雌が多いものでは1~2万個を産卵する。アフリカのコモチヒキガエル属Nectophrynoidesは体長2~3cmと小型で,カエルでは唯一の卵胎生であり大きな子を100匹ほど産む。

 ニホンヒキガエルBufo japonicus japonicus(英名Japanese toad)は俗称ガマ,ヒキ,オヒキなどと呼ばれ,本州,四国,九州の平地から山地にかけてふつうに見られる。体長10~15cm,頭部は幅広く,眼の後方に耳腺が発達し,体背面には多数のいぼ状隆起が散在する。林ややぶのほか人家の庭にもすみつき,通常はほとんど水に入らない。おもに夜間に行動するが,動きはにぶい。餌は昆虫,クモ,ミミズなど。繁殖期は2~5月ころで,池などの止水に約2500~8000個を含むひも状の卵塊を産む。本州中部の山地には渓流性のナガレヒキガエルが生息する。
ガマ
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒキガエル」の意味・わかりやすい解説

ヒキガエル
ひきがえる / 蟇蛙
蟾蜍
toad

両生綱無尾目ヒキガエル科に属するカエルの総称。ガマともいう。世界的に広く分布するのはヒキガエル属Bufoの種で、オーストラリア区を除く全世界に約180種がいる。一般に大形で、皮膚は厚く、乾いている。頭は大きく、目の後方に1対の長楕円(ちょうだえん)形をした耳腺(じせん)をもつ。危険に陥ると耳腺と体表の分泌腺から白い粘液を出すが、これには有毒な物質(ブフォトキシンbufotoxin)が含まれる。そのため、天敵は少ない。地上で生活するが、産卵期には水に入り、多数の卵を1対の紐(ひも)状卵塊として産む。日本には北海道南部、本州、四国、九州にニホンヒキガエルB. japonicus、大東島と宮古島にアジアヒキガエルB. gargarizans、小笠原諸島(おがさわらしょとう)と大東島にオオヒキガエルB. marinusが生息するが、後2種は人為的に移入されたものである。ニホンヒキガエルは体長7~14センチメートル。背面は黄褐、赤褐、暗褐色で、背面のほか体側部や四肢外面に多数の大形不規則斑(はん)がある。色彩や形態の一部にかなり大きな地域差があり、いくつかの亜種に分けることもある。主として山沿いの平地、山間部に生息し、森林内で小形動物を捕食する。1~5月に池、水田、流れのよどみなどで産卵し、卵径は2ミリメートル、卵数は数千個に達する。オオヒキガエルは南アメリカ原産の種で、耕作地の害虫駆除の目的でオーストラリア、ニューギニア島、フィリピンその他の太平洋の島々に移入され、盛んに増殖している。ナタージャックB. calamitaはヨーロッパに広く分布する。体長6~8センチメートルで、後肢が短いため跳躍できず、地上をすばやく走る。

[倉本 満]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒキガエル」の意味・わかりやすい解説

ヒキガエル
toad

カエル目ヒキガエル科のうちおもにヒキガエル属 Bufoに属するものの総称。狭義には日本産のヒキガエル Bufo bufo japonicusをさす。これはガマとも呼ばれ,体長 12cm内外。体の背面は暗褐色あるいは黄褐色で,皮膚にはいぼ状の凹凸がある。皮膚に毒腺をもち,白色の有毒粘液を分泌するが,それにはブファギンあるいはブフォタリンと呼ばれる成分が含まれる。漢方薬ではこれを蟾酥 (せんそ) といい,強心剤として用いている。早春,池や沼などに寒天状の物質に包まれた紐状の卵塊を産む。

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百科事典マイペディア 「ヒキガエル」の意味・わかりやすい解説

ヒキガエル

ヒキガエル科に属する両生類の総称。約10属250種。ニホンヒキガエルは体長10〜15cm,本州,四国,九州に分布。ガマとも。体色は黄褐〜暗褐色。背面には多くの隆起があり,自衛のため目の後方にある耳腺から神経毒のブホトキシンを分泌する。平地や山地の湿地に多く,繁殖期以外水には入らない。卵塊は長いひも状で,春から初夏に産卵。オタマジャクシは黒色で小さい。→蟾酥(せんそ)

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世界大百科事典(旧版)内のヒキガエルの言及

【カエル(蛙)】より

…無尾目Anuraに属する両生類の総称で,成体は完全に変態し幼生(いわゆるオタマジャクシ)とは形態を異にする。英名は一般にはfrogであるが,ヒキガエルのような外観のものをtoadと呼ぶことが多い。極地を除く世界の各大陸に分布し,平地から高地,海水を除く水中から砂漠地帯まで,あらゆる環境に適応放散してすみついている。…

【カエル(蛙)】より

…無尾目Anuraに属する両生類の総称で,成体は完全に変態し幼生(いわゆるオタマジャクシ)とは形態を異にする。英名は一般にはfrogであるが,ヒキガエルのような外観のものをtoadと呼ぶことが多い。極地を除く世界の各大陸に分布し,平地から高地,海水を除く水中から砂漠地帯まで,あらゆる環境に適応放散してすみついている。…

【ガマ(蝦蟇)】より

ヒキガエルの俗称。〈びっき〉などの異名があり,日中物陰にいて夕方に現れ昆虫や蠕虫(ぜんちゆう)類を舌を出してとらえるが,すばやいため虫が自然に口中に引き込まれるように見え,〈ひき〉の名が出たらしい。…

【ガマの油売】より

…この軟膏は,外傷やひび,あかぎれ,やけどなどの治療に効果があるといわれ,軍中膏として用いられた。ヒキガエル(ガマ)が敵に向かったり,ある刺激を加えられたときに分泌する白い液を収集し薬として売られていたもの。しかし,薬としての効用よりも,江戸時代から明治にかけ,縁日や祭りの街頭でおもしろおかしい口上で客を集めて香具師が販売したその口上のおもしろさがむしろ有名である。…

【毒腺】より

…両生類,魚類には皮膚腺が毒液を分泌するものがある。ヒキガエルの耳旁(じぼう)腺はその例である。オニダルマオコゼ類やゴンズイでは背鰭棘(はいききよく)の基部の皮膚中にあり,棘を通じて毒が出される。…

※「ヒキガエル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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