パウロがガラテヤの諸教会にあてて書いた手紙。ガラテヤは今のトルコのアンカラを中心とする一帯であるが,前1世紀後半,ローマはそれに南接する地方を加えて属州ガラテヤ(ガラティア)とした。そのため,この手紙のあて先は,彼が第1伝道旅行で訪れた属州ガラテヤの南部地域か,第2伝道旅行で訪れた元来のガラテヤ地方か,争われている。これらの教会はパウロによって建てられたが,その後彼に批判的なキリスト教伝道者が来て,ユダヤ人以外でキリスト教信仰に入ろうとする者は,ユダヤ教の律法が定めるように割礼を受け,ユダヤ人の一員となる必要があると主張した。彼はこのうわさを聞いて心配し,この手紙を書いて,人はただキリストを信じて救われるのであって,律法を守るというような自力にも頼ることは正しくないと力説した。このようにこの手紙は彼の信仰理解の核心を鋭く伝えており,後世に大きな影響を及ぼした。
執筆者:佐竹 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…〈信仰義認論〉または〈福音主義〉と呼ばれるものがそれであって,〈ひとの救いは,行いによるものではなく,十字架のキリストにおける罪の贖(あがない)を信ずることのみによる〉という確信を根底としている。そのさい,ルターの個人的宗教体験に客観的な裏づけを与えたものは,とりわけ旧約聖書の《詩篇》と新約聖書のパウロ書簡(《ローマ人への手紙》《ガラテヤ人への手紙》)であった。〈九十五ヵ条〉で表明された彼の疑念と批判は,教皇が,贖宥状(免罪符)の購入のごとき外的な〈行い〉(功績)に免じて,信徒の罪そのものを赦す特別の力をそなえていると思うのは誤りであり,真の内的な悔い改めと,唯一の救い主キリストの御業(みわざ)に示される神の恩寵への,全面的な信仰によってしか魂は救われない,という根本的確信の帰結にほかならなかった。…
…ギリシア語ではパウロスPaulos。
[資料]
新約聖書中に彼の書いたとされる手紙が13収められているが,そのうち確実に彼のものと思われるものは,《ローマ人への手紙》,《コリント人への手紙》(第1,第2),《ガラテヤ人への手紙》,《ピリピ人への手紙》,《テサロニケ人への手紙》(第1),および《ピレモンへの手紙》の合計7である。《使徒行伝》の後半はパウロを中心にして書かれているが,必ずしも客観性を志した叙述ではない。…
※「ガラテヤ人への手紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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