日本大百科全書(ニッポニカ) 「クサアブ」の意味・わかりやすい解説
クサアブ
くさあぶ / 臭虻
昆虫綱双翅(そうし)目短角亜目アブ群のクサアブ科Coenomyiidaeの昆虫の総称。この科の昆虫は、頭部は短くて複眼は大きく、雄では合眼的、雌では離眼的。触角は細くて短い。顔面の中央部と眼縁部との間には深い溝が走る。胸部は大きくて頭部よりも幅が広く、短毛を密生し、小楯板(しょうじゅんばん)の先端に棘(とげ)をもつものが多い。はねは長く、前縁脈ははねの全周を走る。一般的に脚(あし)の脛節(けいせつ)末端に距刺(きょし)がある。腹部は胸部よりも太く、紡錘形のものと円筒状で胸部よりも細いものとがある。
代表種のネグロクサアブCoenomyia basalisは、体長雄14~16ミリメートル、雌21~23ミリメートル、翅長15~18ミリメートル。体は太くてずんぐりしている。雄は黒褐色、雌は赤褐色。胸部背面は丸く隆起し、黄色毛を密生する。小楯板の後縁には1対の太い棘状(きょくじょう)突起がある。はねの前縁寄りは黄色みを帯び、とくに雌で著しい。雄の腹部は黒色で光沢に富み、第2節には1対の黄色円形の側紋がある。雌の腹部は基部のみが黒色で、以下の各節は赤褐色、後縁寄りに黒色の三角紋があり、後節のものほど小さくなる。日本各地のほか、台湾、中国など東洋区に広く分布する。
キジマクサアブAnacanthaspis bifasciata japonicaは、体長12~14ミリメートル、翅長11~12ミリメートルで、体は黒色。胸部背面の周縁部と1対の亜背縦条は黄白色。はねは帯褐色で、径中横脈上に黒褐色の大きな斑紋(はんもん)がある。また、はねの基部より3分の1と翅端部とは暗色。脚は黒褐色で、腿節(たいせつ)末端の4分の1以下は黄褐色。腹部は胸部よりも太くて円筒状。各節の後縁にある4本の黄白色帯は明瞭(めいりょう)である。本州に分布する。
シマクサアブOdontosabula gloriosaは、体長18~20ミリメートル、翅長12~16ミリメートルで、美麗種。体の地色は黒色。触角には褐色輪紋がある。胸部はビロード様で黒色細毛を密生し、背面には4本の明瞭な黄色縦条が走る。小楯板は赤黄色で、後縁には1対の太い棘状突起がある。はねは褐色で翅脈は黒褐色。脚は橙黄(とうこう)色、ただし各基節、後脚脛節の末端3分の2、後脚腿節の末端2分の1はそれぞれ黒色を帯びる。後脚脛節末端には2本の距刺があり、後脚腿節の黒色部は太い。腹部第2節から第4節は橙黄色で、その中央には菱(ひし)形の黒色紋がある。本州、九州に分布する。
[伊藤修四郎]