日本大百科全書(ニッポニカ) 「クリーリー」の意味・わかりやすい解説
クリーリー
くりーりー
Robert Creeley
(1926―2005)
アメリカの詩人。一時期ハーバード大学で学んだが、1948年に卒業を待たずに去り、国の内外を放浪しながら暮らした。その後、ブラック・マウンテン・カレッジという実験大学で教えるようになり(この大学はやがて廃校となる)、前衛的、実験的な雑誌『ブラック・マウンテン・レビュー』の創刊、編集に携わった。W・C・ウィリアムズやC・オルソンの影響を受けた。平易なアメリカ語法を使いながら、心理的揺曳(ようえい)を微妙なニュアンスで歌う独自の詩的境地を開いた。そうした詩は、『言葉』(1967)をみてもわかるように、単音節の小さなことばが多く使用されており、詩行も短く、形式によっていない。そのこと自体が、彼の育ったニュー・イングランドの話しことばと共通するようであり、また形式性の放棄は、ニュー・イングランドに遺(のこ)っていたピューリタン的な厳格さへの抵抗を示唆するようでもある。彼の文字どおりの放浪は、歩くという行為をことばに体現したこととかかわりがあるだろう。彼のほとんど一貫したテーマである「愛」は、放浪という彼の不安定な人生のパターンのなかで実現されることもあり、破綻(はたん)につまずくこともあった(彼は少なくとも3回離婚した)。そうした「愛」のいわば偶然の行為を、ときにエロティックで、ときに苦痛に満ちた心理状態として示し、その状態を意識することが彼の芸術の中心にある。初期の詩集『愛のために――1950~60』ののち、オルソンの「投射詩論」を試みる詩作活動を展開した。『全詩集』は1982年出版。
[徳永暢三]