オキサロ酢酸(読み)オキサロサクサン(英語表記)oxaloacetic acid

デジタル大辞泉 「オキサロ酢酸」の意味・読み・例文・類語

オキサロ‐さくさん【オキサロ酢酸】

oxaloacetic acid》生物の呼吸で重要なTCA(トリカルボン酸)回路の一員。ジカルボン酸の一。ピルビン酸から生じた活性酢酸と結合して枸櫞くえん酸となり、回路が始動し、一巡すると、再びオキサロ酢酸が生成されて、回路は引き続き作動する。分子式C4H4O5

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オキサロ酢酸」の意味・わかりやすい解説

オキサロ酢酸
おきさろさくさん
oxaloacetic acid

炭素数4のジカルボン酸の一種。オキソ酸ケト酸ともいう。カルボニル基O-とカルボキシ基カルボキシル基)-COOHを同一分子中にもつ有機化合物の総称)の一種でもある。2-オキソブタン二酸 2-oxobutanedioic acid、ケトコハク酸ketosuccinic acidともいう。組成式はC4H4O5、分子量は132.07である。ケト型とエノール型の互変異性体(急速に変換しうる2種の構造異性体)がある(参照)。結晶はエノール型で、エノール型にはシス型とトランス型がある。酢酸エチルエステルと四塩化炭素の混合液から結晶化するとシス‐エノール型が得られ、融点は152℃、エタノールアセトンに可溶。アセトンとベンゼンの混合液から結晶化するとトランス‐エノール型が得られ、融点は184℃、水、エタノール、エーテルに可溶。

 オキサロ酢酸はクエン酸回路トリカルボン酸回路TCA回路ともいう)の一員であり種々の役割を果たしている。糖、アミノ酸、脂肪酸の分解産物である、アセチル補酵素AアセチルCoA)のアセチル基(CH3CO-)はオキサロ酢酸と縮合してクエン酸となりクエン酸回路に入り完全酸化され二酸化炭素(CO2)と水(H20)になる。この場合、オキサロ酢酸は再生されるので、触媒的役割を果たしている。糖新生(生体内でグルコースをつくること)においては、オキサロ酢酸はフォスフォエノールピルビン酸となり(フォスフォエノールピルビン酸カルボキシナーゼという酵素が働く)、解糖系の逆をたどりグルコースとなる。すなわちグルコースの原料としての役割を果たす。この場合は、オキサロ酢酸は消費されるので、クエン酸回路回転のためにオキサロ酢酸を補充する必要がある。動物ではピルビン酸から(ピルビン酸カルボキシラーゼという酵素が働く)、またリンゴ酸から(リンゴ酸デヒドロゲナーゼという酵素が働く)オキサロ酢酸ができる。アミノ酸代謝においては、オキサロ酢酸からアスパラギン酸が、あるいはアスパラギン酸からオキサロ酢酸が生成する(両方の反応でアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼという酵素が働く)。

[徳久幸子]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「オキサロ酢酸」の解説

オキサロ酢酸
オキサロサクサン
oxalacetic acid

2-oxobutanedioic acid,ketosuccinic acid.C4H4O5(132.07).ケト酸の一種で,ケト形とエノール形の互変異性体がある.

   HOOCCOCH2COOH HOOCC(OH)=CHCOOH   

リンゴ酸を過マンガン酸カリウムあるいは硫酸鉄(Ⅱ)の存在下,過酸化水素で酸化するか,ジアセチル酒石酸無水物をピリジン酢酸塩で処理してヒドロキシマレイン酸無水物のピリジン塩をつくり,これを硫酸で加水分解すると得られる.結晶では完全にエノール形をしており,融点152 ℃ のシス形と184 ℃ のトランス形の2種類があり,いずれもエタノールに可溶.シス形はヒドロキシマレイン酸(a),トランス形はヒドロキシフマル酸(b)に相当する.(b)は,ピリジン中50 ℃ で加温すると(a)に異性化する.生体系では,クエン酸サイクルのなかでリンゴ酸脱水素酵素によりリンゴ酸から生成し,アセチルCoAと反応してクエン酸を生成する.[CAS 328-42-7]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「オキサロ酢酸」の意味・わかりやすい解説

オキサロ酢酸 (オキサロさくさん)
oxalo-acetate


低分子生体物質の一種。クエン酸回路の一員。リンゴ酸の酸化により生成し,アセチルCoAと縮合してクエン酸となり新しい回路に入る。単子葉植物など(C4植物)の炭酸固定のさい最初に生成する物質。またアスパラギン酸からトランスアミナーゼの作用によっても生成する。コハク酸(クエン酸回路の3段階前の物質)の酸化を触媒するコハク酸デヒドロゲナーゼを拮抗阻害する。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

栄養・生化学辞典 「オキサロ酢酸」の解説

オキサロ酢酸

C4H4O5 (mw132.07).

 クエン酸回路の代謝中間体としてまたアミノトランスフェラーゼの基質として重要な生理的意義をもつ2-オキソ酸(ケト酸).

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android