翻訳|tyrosine
芳香族α(アルファ)-アミノ酸の一つ。非必須アミノ酸で、融点342~344℃。光沢のある微小針状晶。水にきわめて溶けにくい。タンパク質の呈色反応であるキサントプロテイン反応やミロン反応などはチロシンによるもので、これらの反応によって検出や定量が行われる。多くのタンパク質中に含まれるが、とくにカゼイン、絹糸フィブロイン中に多く、これらの加水分解、消化または腐敗による分解で生ずる。古いチーズ中にも含まれ、また遊離の状態でもみいだされる。1846年ドイツの化学者リービヒによりカゼインのアルカリ分解物中から発見され、ドイツの有機化学者エルレンマイヤーらにより合成され、構造が確認された。ジヨードチロシンおよびモノヨードチロシンは、甲状腺(せん)ホルモンの主体であるチロキシンとともに甲状腺に存在する(チロシンが1か所ヨード化されるとモノヨードチロシン、2か所ヨード化されるとジヨードチロシンとなる。ヨードはヨウ素のこと)。ヨードチロシンは種々の海藻および海綿中にも存在する。
チロシンはフェニルアラニンの酵素的水酸化(生体内で酵素の関与によりヒドロキシ基-OHが導入されること)によって、生体内で生成される。チロシンの酸化的分解には二つの経路がある。一つはフマル酸およびアセト酢酸に分解する経路で、もう一つはチロシナーゼによりドーパ(3,4-ジオキシフェニルアラニン)となり、さらに変化を受けてメラニンおよび副腎(ふくじん)髄質ホルモンのアドレナリンを生成する経路である。チロシンの先天性代謝異常には、チロシン血症、アルカプトン尿症、フェニルケトン尿症のほか、メラニン産生障害による色素脱失症などがあるが、いずれも代謝経路の一部を欠くものとされている。また、生体の種々の制御過程において、関与するタンパク質中のチロシン残基の一部が、チロシンキナーゼによってリン酸化されることにより、細胞の情報伝達系における重要な役割を担っている。
[飯島道子]
『W・C・マクマリー著、斉藤正行・矢島義忠訳『人体の代謝』(1987・東京化学同人)』▽『日本生化学会編『新 生化学実験講座1 タンパク質5 酵素・その他の機能タンパク質』(1991・東京化学同人)』▽『渋谷正史編『がんのバイオサイエンス1 がん遺伝子と抑制遺伝子』(1991・東京大学出版会)』▽『浜口道成著『実験医学バイオサイエンス6 がん・増殖・分化の演出家チロシンキナーゼ』(1992・羊土社)』▽『船山信次著『アルカロイド――毒と薬の宝庫』(1998・共立出版)』▽『R・K・マレー他著、上代淑人・清水孝雄監訳『ハーパー生化学』原書28版(2011・丸善)』
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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