日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピルビン酸」の意味・わかりやすい解説
ピルビン酸
ぴるびんさん
pyruvic acid
ケト酸の一種。ブドウ酸(または酒石酸)を硫酸水素カリウムとともに加熱すると得られるので、古くは焦性ブドウ酸とよばれていた。また、2-ケトプロピオン酸ともよばれる。無色で刺激臭をもつ液体で、還元すると乳酸になり、濃硫酸と加熱すると一酸化炭素を放出し酢酸になる。細菌・酵母から動植物に至るまで広く生物体内における物質代謝の中間体として存在するきわめて重要な物質である。
[廣田 穰 2015年7月21日]
生体内のピルビン酸
生物の重要なエネルギー源である炭水化物(グリコーゲン)の分解過程において、解糖や発酵などの嫌気的過程と、好気的過程であるTCA回路の接点に存在し、炭水化物代謝の中心的位置を占める。すなわち、糖類が嫌気的過程でホスホエノルピルビン酸になり、このリン酸転移によりピルビン酸とATPが生成する。ピルビン酸が乳酸デヒドロゲナーゼの作用を受けて乳酸になるのが解糖であり、一度、脱炭酸を受けてアセトアルデヒドとなり次にアルコールとなるのが発酵である。また、ピルビン酸脱水素酵素系の作用によってアセチル補酵素Aとなり、オキサロ酢酸と反応してクエン酸となってTCA回路に入る。ここで好気的分解を受けてエネルギー獲得を行う。アセチル補酵素Aは脂肪酸の合成の中心となる物質でもある。また、グルタミン酸からピルビン酸へのアミノ基転移によってアラニンを生ずる。
このように、ピルビン酸は生体内で炭水化物をはじめ、脂肪酸やアミノ酸の合成・分解に深く関与している物質である。
[飯島康輝]