酪酸(読み)ラクサン(その他表記)butyric acid

デジタル大辞泉 「酪酸」の意味・読み・例文・類語

らく‐さん【酪酸】

有機酸の一。不快臭をもつ油状液体。正酪酸・イソ酪酸の2種の異性体がある。正酪酸CH3CH2CH2COOHは、バターなどにグリセリンエステルとして含まれ、酪酸菌発酵によっても生成。水・エタノールに溶ける。合成香料などの原料。イソ酪酸(CH32CHCOOHは、植物中に遊離酸またはエステルとして存在。水に溶けにくい。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「酪酸」の意味・読み・例文・類語

らく‐さん【酪酸】

  1. 〘 名詞 〙 有機酸の一つ。炭素原子四個の飽和一塩基脂肪酸。化学式 CH3CH2CH2COOH バターが酸敗したとき少量生成する。不快臭のある液体で、合成香料やワニスの原料となる。〔現代語大辞典(1932)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「酪酸」の意味・わかりやすい解説

酪酸
らくさん
butyric acid

脂肪族カルボン酸の一つ。酪酸(正酪酸、n-酪酸)とイソ酪酸の二つの異性体がある。いずれも水溶液は酸性を示す。酪酸はブタン酸ともよばれる。不快なにおいをもつ無色の液体で、水、エタノール(エチルアルコール)、エーテルのいずれとも任意の割合で混じり合う。グリセリドとしてバターなどの動物の乳脂中に含まれているほか、いろいろなアルコールのエステルとして植物精油中にもみいだされる。草食性哺乳類(ほにゅうるい)は、消化器中におけるセルロースヘミセルロースなどの炭水化物の酪酸菌による発酵で酪酸を合成して、栄養源としている。工業的には、ブタノールブチルアルコール)やブチルアルデヒドを酸化して合成している。この酸化を実験室的に行うには、酸化剤として過マンガン酸カリウムを用いる。合成香料、ワニスの製造原料となる。

[廣田 穰 2016年11月18日]


酪酸(データノート)
らくさんでーたのーと

酪酸
  CH3CH2CH2COOH
 分子式  C4H8O2
 分子量  88.1
 融点   -5.26℃
 沸点   164.05℃
 比重   0.9587(測定温度20℃)
 屈折率  (n)1.3980
 解離定数 2.3×10-5

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「酪酸」の意味・わかりやすい解説

酪酸 (らくさん)
butyric acid

脂肪族カルボン酸の一つで,n-酪酸CH3CH2CH2COOHとイソ酪酸(CH32CHCOOHの2異性体がある。n-酪酸はバターに含まれるので,発見者であるフランスのM.E.シュブルールによって,バターのラテン語būtýrumから命名された。和名の酪酸も牛酪(バター)からとられた。

 n-酪酸はグリセリンエステルとしてウシやヤギなどの家畜の乳脂中に含まれている。融点-5.26℃,沸点164.05℃の腐敗臭をもつ無色の液体。水,エチルアルコール,エーテルによく溶ける。酸性を示し,酸解離指数pKa(25℃)=4.817。n-ブチルアルコールを過マンガン酸カリウムで酸化するか,炭水化物の酪酸発酵によって製造される。遊離酸が皮革の脱カルシウム剤として用いられるほか,低級アルコールとのエステルは果実臭をもつことから,ジュース,キャンディなどの着香料として用いられる。

 イソ酪酸は遊離状態またはエステルとしてマメ科やセリ科の植物中に存在する。n-酪酸に似た臭気をもつ,融点-47℃,沸点154.5℃の無色の液体である。酸解離指数はpKa(25℃)=4.85で酸性を示す。冷水に可溶,エチルアルコールやエーテルには任意の割合で混じり合う。イソブチルアルコールの酸化によって得られる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「酪酸」の解説

酪酸
ラクサン
butyric acid

butanoic acid.C4H8O2(88.11).CH3CH2CH2COOH.正酪酸,ブタン酸ともいう.異性体にはイソ酪酸(CH3)2CHCOOHがある.グリセリドとして,動物の乳脂中に含まれているほか,糖や乳酸の酪酸発酵過程で生成する.ブチルアルコールを過マンガン酸カリウムで酸化すると得られる.油状の液体.融点-7.9 ℃,沸点163.5 ℃.0.959.1.3991.pKa 4.82(25 ℃).水,エタノール,エーテルに可溶.不快な腐敗臭をもち,わずかではあるが毒性,刺激性がある.合成香料やワニスの製造原料となる.イソ酪酸は,植物の精油中に遊離またはエステルとして存在する.イソプロピルアルコールから容易に合成される.液体.沸点154 ℃.0.9504.1.3930.pKa 4.85.水に難溶,エタノール,クロロホルム,エーテルに可溶.正酪酸同様の性質を有する.[CAS 107-92-6][CAS 79-31-2:イソ酪酸]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「酪酸」の意味・わかりやすい解説

酪酸【らくさん】

n‐酪酸CH3CH2CH2COOHとイソ酪酸(CH32CHCOOHの2異性体がある。n‐酪酸は特有のにおいをもつ無色の液体で,融点−5.26℃,沸点164.05℃。家畜の乳脂中にグリセリンエステルとして含まれるためこの名がある。合成香料の原料,乳化剤などに使用。n‐ブチルアルコールの酸化,糖蜜またはデンプンの酪酸発酵によりつくられる。イソ酪酸は遊離状またはエステルとして植物中微量存在。融点−47℃,沸点154.5℃。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「酪酸」の意味・わかりやすい解説

酪酸
らくさん
butyric acid

炭素原子数4個の直鎖の一塩基飽和脂肪酸。化学式 CH3(CH2)2COOH 。腐敗臭をもった無色の油状液体。糖類や乳酸の発酵によって生じる。水に可溶。沸点 162℃。炭水化物や乳酸の酪酸発酵によって生成する。天然には家畜の乳脂中にわずかに存在する。合成香料用エステルの原料やワニスの製造に用いられる。異性体にイソ酪酸 CH3CH(CH3)COOH がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「酪酸」の解説

酪酸

 C4H8O2 (mw88.11).

 特有の臭気をもつ常温で液体の化合物.着香剤として使われる食品添加物.バター脂などに含まれる.反すう動物では,反すう胃内の微生物によって作られる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android