サバヒー(読み)さばひー(英語表記)milk fish

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サバヒー」の意味・わかりやすい解説

サバヒー
さばひー
milk fish
salmon herring
[学] Chanos chanos

硬骨魚綱ネズミギス目サバヒー科に属する海水魚。ニシンのような体形をしているが、背びれが高く尾びれが深く切れ込み、体側に1本の側線がある。口の前端はよくとがり、両顎(あご)に歯がない。目に脂瞼(しけん)(透明な膜)が発達する。鰓腔(さいこう)の後部に特殊な上鰓器官がある。体の背側はオリーブ色、腹面は銀白色。全長1メートルを超える大形種で、1.8メートルの記録がある。紅海、アフリカ東岸、およびアメリカ、メキシコ、台湾、フィリピンなどの東西の太平洋と、インド洋熱帯から亜熱帯の全域に広く分布する。日本では津軽(つがる)海峡や陸奥(むつ)湾以南、房総(ぼうそう)半島などの暖流勢力の強い海域に来遊するが、南西諸島南部を除けば、ほとんどは幼魚である。

 遊泳力が強く、高速で泳ぐ。高温に強く20~33℃が適温で、それ以下では活動が鈍り、12℃で死ぬ。塩分濃度に対しても広い適応能力をもち、海水域から淡水域へ容易に侵入できる。胃は厚く、腸が長くて体長の7~12倍ある。藍藻(らんそう)、珪藻(けいそう)、浮遊微生物などの動植物プランクトンや、海底に積もった有機物の細片、小さな生物などを吸い込んで食べる。

 4~5歳で体長1メートルほどになって成熟する。産卵期には群れをつくって岸辺に近づき、水深30メートル前後の入り江やマングローブ帯、ときには河口汽水域や淡水域にも入って産卵する。産卵期は水域によって異なる。暖海では周年にわたるが、一般には春が盛期で、フィリピンやジャワ島では3~6月、台湾では4~6月である。沖縄では5月に成熟した魚が獲れており、産卵も5月ごろと推測される。1尾がはらむ卵の数は600~900万個。卵は分離浮性で、卵径は約1.2ミリメートル。受精卵は水温30℃のときに30時間余りで孵化(ふか)する。孵化仔魚(しぎょ)は全長3.4ミリメートルほどである。全長13ミリメートルぐらいのシラス型幼生は、海岸の浅所に出現する。変態が終わる18ミリメートル前後には海と連絡した湖沼、河口域タイドプール、養魚池付近に出現する。ここで2、3年成長し、全長70センチメートルぐらいになると海へ帰る。

 東南アジア、フィリピン、台湾などでは、15ミリメートルほどの仔魚を採捕し、繁殖させた天然餌料で飼育する。幼魚になってから池に入れて養成し、300グラム以上にして市場に出す。ミルクフィッシュとよばれ、肉は桃色で美味である。

[落合 明・尼岡邦夫]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サバヒー」の意味・わかりやすい解説

サバヒー
Chanos chanos

ネズミギス目サバヒー科。体長は普通 1mほど,大型で 1.7mになる。体はやや長く,側扁する。体色は銀白色。背鰭は体の中央に,腹鰭はその下にある。尾鰭は長く,二叉する。太平洋,インド洋の熱帯,亜熱帯,日本では千葉県以南に分布する。沿岸に棲息するが,河川に入ることもある。東南アジアでは重要な食用魚で,フィリピン,インドネシア,台湾を中心に養殖も盛んである。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

放射冷却

地表面や大気層が熱を放射して冷却する現象。赤外放射による冷却。大気や地球の絶対温度は約 200~300Kの範囲内にあり,波長 3~100μm,最大強度の波長 10μmの放射線を出して冷却する。赤外放射...

放射冷却の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android