日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
シクロペンタジエニル錯体
しくろぺんたじえにるさくたい
cyclopentadienyl complex
シクロペンタジエニル(シクロペンタジエニドともいう)・アニオンC5H5-と金属イオンとの錯体。シクロペンタジエニル環を含む有機金属化合物には、環の一つの炭素と金属が直接σ(シグマ)結合しているものがある。たとえばケイ素、スズ、鉛化合物などである。これに対し遷移金属の錯体では、金属はシクロペンタジエニル環に広がるπ(パイ)電子と配位結合をつくるので、π-シクロペンタジエニル錯体とよばれる。
π-シクロペンタジエニル錯体は大きく2種類に分かれ、一つはサンドイッチ型化合物でメタロセンとよばれる。代表的な例としては、鉄を中心金属として含むフェロセンFe(C5H5)2がある。他の一つはシクロペンタジエニル環一つが金属と配位し、さらに一酸化炭素または一酸化窒素が配位したものでバナジウム、マンガン、タングステン錯体などが知られている。多くは空気中で熱に対して安定である。エーテルなど多くの有機溶媒に可溶。各金属で特有の色をもっている。
[佐藤武雄・廣田 穰]