改訂新版 世界大百科事典 「シチェプキン」の意味・わかりやすい解説
シチェプキン
Mikhail Semyonovich Shchepkin
生没年:1788-1863
ロシアの俳優。農奴の家に生まれ,小学校時代から学校劇に出演。1805年職業的俳優となり各地の劇団を遍歴。22年一家とともにようやく農奴の身分から解放され,モスクワの舞台に登場した。24年マールイ劇場創立とともに専属となり,永年の俳優生活の体験から,誇張のつきまとう演技,朗誦風なせりふ回しをしりぞけ,自然で写実的な芸風をめざす改革者となった。それは対ナポレオン戦争,デカブリストの乱後の国民的自覚の高まりをうけたロシア文学の興隆期とも重なり,《検察官》の市長,《知恵の悲しみ》のファームソフの形象の創造者として,ツァーリズムを支える彼ら官僚たちの頑迷と邪悪の摘発者となり,またゴーゴリ,シェフチェンコをはじめ多くの文学者を盟友として演劇の社会的役割の強化に努め,半世紀にわたる盛んな舞台活動を通じて,ロシア国民演劇のリアリズムの伝統の確立に偉大な足跡を残した。
執筆者:野崎 韶夫
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