1825年12月に専制と農奴制の廃棄をかかげて,ロシアで初めて武装蜂起を行った貴族の将校たち。ロシア語で12月のことをデカーブリというところから,後に十二月党員(デカブリスト)と名付けられた。
1816年,ムラビヨフAleksandr N.Murav'yov(1792-1863),ヤクーシキンIvan D.Yakushkin(1793-1857)ら6人の近衛の青年士官によって,最初の秘密結社〈救済同盟Soyuz spaseniya〉がつくられた。彼らはいずれもナポレオン戦争の参加者で,戦争のさなかに農民出身の兵に接してその悲惨な生活の実情を知った。それとともに外征中にロシアとくらべてはるかに進んでいる西欧諸国の政治・社会を見聞した。ここから彼らは立ち遅れた祖国ロシアの〈救済〉を願って結社をつくった。2年後の18年に〈救済同盟〉は〈福祉同盟Soyuz blagodenstviya〉へと発展する。この結社には200人ほどが加わっており,彼らは農奴制と専制の廃止という点では一致していたが,将来のロシアが立憲君主制を施行するのか,それとも共和国となるのかという点では意見が分かれた。また手段として武装蜂起を採用するか否か,蜂起のやり方と時期についても意見が分かれた。このような意見の相違と,自分たちの結社の存在を当局のスパイが察知しているという情報が入ったところから,21年,〈福祉同盟〉は解散し,第2軍管区のある南ロシアのトゥリチンに本拠をおく〈南方結社Yuzhnoe obshchestvo〉と首都のペテルブルグに本拠をおく〈北方結社Severnoe obshchestvo〉とに分かれた。前者はペステリ大佐の指導下に将来のロシア共和国の憲法ともいうべき《ルスカヤ・プラウダRusskaya pravda》を自分たちの結社の綱領として採択した。後にこの結社にスラブ諸民族の連邦をめざす〈統一スラブ結社Obshchestvo soedinyonnykh slavyan〉が合流する。一方,〈北方結社〉のN.M.ムラビヨフは立憲君主制をめざす憲法草案を作った。しかし23年からこの結社にもルイレーエフ,ベストゥージェフ兄弟ら共和制支持者が加入し,意見は分かれた。
25年11月,皇帝アレクサンドル1世が旅行先で急死した。彼には子どもがいなかったところから,皇位継承をめぐって一時空位の期間が生じた。そのうえデカブリストの軍には,すでにスパイによって自分たちの計画が政府に報告されているといううわさが入り,ここにおいて彼らは十分に準備のととのわぬまま,12月14日,元老院広場で蜂起を敢行した。しかしこれは新帝ニコライ1世の指揮する軍隊によって容易に鎮圧された。南ロシアでも12月13日にペステリら指導者が逮捕されたあと,12月29日に蜂起が行われたが,これも政府軍によって簡単に鎮圧された。
蜂起の直後特別法廷がつくられ,579人がここで裁かれた。その結果,ペステリ,ルイレーエフら5人の首謀者が絞首刑,121人がシベリア徒刑ないし流刑となった。彼らのなかには,処刑されたルイレーエフ,シベリアに流刑されたキュヘリベーケルV.K.Kyukhel'beker(1797-1846),オドーエフスキーA.I.Odoevskii(1802-39)らの詩人,一兵卒に降格されカフカス勤務を命じられたベストゥージェフなどプーシキンの友人・知己が多く含まれている。シベリア流刑者らの罪が許されヨーロッパ・ロシアに戻れたのは,ニコライ1世の死後即位したアレクサンドル2世の治世になってからである。貴族の身分や立身出世を捨てて,祖国ロシアのため,人民のために一身を捧げたデカブリストの事業は,その後プーシキンやネクラーソフの詩とともに語りつがれ,ロシアの革命運動に大きな影響を与えた。
執筆者:外川 継男
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「十二月党」の意。ナポレオン戦争後の1816年,6人のロシアの青年貴族将校によって最初の秘密結社「救済同盟」がつくられたが,そのめざすところは,専制と農奴制を廃棄することにより西ヨーロッパ諸国に比して立ち遅れている祖国を救済することであった。その後この結社は,18年の「福祉同盟」をへて,21年に「南方結社」と「北方結社」に分裂し,前者は共和制を,後者は立憲君主制を志向した。25年12月アレクサンドル1世の急死に接し,彼らは十分の準備も整わぬまま武装蜂起を起こし鎮圧された。裁判の結果,指導者の5人が処刑され,多くがシベリアへの流刑に処せられた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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