最も広い意味では,動物が生まれてから死ぬまで,地上にしるした生活の軌跡であり,単なる足跡(狭義)だけでなく,動物が踏みならした通り跡trail,さらには食べ跡,巣跡,糞(ふん),生痕化石などまでを包含することができる。
足跡foot printは地上に限らず,雪や氷や草むらや落葉の上など動物が歩いた跡には必ずしるされるものであるが,これを読みとるには二つの条件がいる。
一つは足跡がはっきり残っているかどうかである。固い岩盤,粗い砂礫(されき),流れの速い川底,落葉の堆積,草むらなどでは,ふつうは残らないか,はっきりしないものである。いま一つは,目に見えている足跡がなんという種類の動物のものであり,それがどういう状況であったかを判断し理解することができるかどうかである。〈足跡を読む〉とはふつうこの場合をいう。
足跡には足裏の接地のぐあいによって,獣の場合,蹠行(しよこう),半蹠行,趾行(しこう),蹄行の区分がある。ヒト,サル,クマのように,手のひら,足裏全部(かかとまで)をつけてのっしのっしと歩く場合が蹠行であり,アナグマやイタチのように,足裏の半分ほどは接地するが,かかとはつかない歩き方が半蹠行である。イヌ,ネコのように,指の裏側にある肉のふくらみが,クッションの役割をする指球(後足の場合は趾球)と,各指のつけねの部分に発達する同じような役を果たす指間球(趾間球)の部分をつけて歩くのが趾行であり,ウマ,イノシシなど有蹄獣が,足指の先端のひづめの部分だけで歩く場合が蹄行である。蹠行は原始的な歩き方で,趾行,蹄行と進むに従って,駆ける速さが速くなってくる。
同じ動物でもさまざまな歩き方があり,それによって足跡のつきぐあいも少しずつ変わってくる。常歩(なみあしwalking)というのは短い歩幅でのこのこ歩く場合であり,速歩(だくあしtrotting)はキツネなどが足早にとことこと軽く駆ける場合をいい,繫駕(けいが)レースのウマの駆け方はこれである。襲歩(かけあしgallopまたはrunning)は全力疾走の場合で,競走馬やドッグレースのイヌなどの駆け方である。一般に歩いているときよりも駆けるときのほうが,足跡は大きく深くつくものである。
鳥の場合も同様に,スズメのような小鳥によく見られるぴょんぴょん歩き(hopping)と,ニワトリやハトがするのこのこ歩き(walking)とがあってそれぞれに足跡のつき方が違う。
足跡を判別しこれを追跡することをトラッキングtrackingといい,狩猟や野外動物学のうえでは重要な技術である。足跡を記録し,その意味するものを解読し,それを科学的に立証していくことは,野外レクリエーションとしても楽しい。新しい自然観察活動の中でも,高く位置づけられている。
執筆者:柴田 敏隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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