日本大百科全書(ニッポニカ) 「シュヒトマン」の意味・わかりやすい解説
シュヒトマン
しゅひとまん
Daniel Shechtman
(1941― )
イスラエルの化学者。シェヒトマンとも表記される。テル・アビブに生まれる。1968年、イスラエル工科大学で理学修士号を取得。1972年、同大で博士号取得、1981年からアメリカ合衆国のジョンズ・ホプキンズ大学でアルミニウム合金について研究。その後、イスラエル工科大で特別教授を務める。2011年、第三の固体と称される「準結晶の発見」の業績により、ノーベル化学賞を単独で受賞した。
1982年、シュヒトマンはアルミニウムとマンガンを急冷して合金を作製し、エックス線を用いて原子構造を調べる研究に取り組んでいたが、その際、電子顕微鏡で撮影した像を見ると中心から花弁が伸びるように原子が五角形に広がっていた。それまでは、固体を構成する原子の並びは、三角形、四角形、六角形などの形状ですき間なく結晶を形成し、隣り合う原子同士の距離や角度が整然と決まっているか、あるいは原子が乱雑に散らばっている非晶質(アモルファス)の状態のどちらかであった。シュヒトマンが観察した像は、これらと明らかに違うものであったが、周囲からは認められず、当時の上司からは教科書を渡され「勉強をし直せ」といわれたほどであった。しかしその後、このことを論文にまとめて発表すると、同じような固体が次々と発見され、結晶に準じる構造という意味から「準結晶」と名付けられた。結晶でも非晶質でもない固体の第三の状態として広く認知され、化学の教科書は書き換えられた。準結晶は、熱や電気を伝えにくく、ものが接着しにくい性質があるため、フライパンやカミソリの刃などに応用されている。
[馬場錬成]