非晶質(読み)ヒショウシツ(その他表記)amorphous substance

デジタル大辞泉 「非晶質」の意味・読み・例文・類語

ひしょう‐しつ〔ヒシヤウ‐〕【非晶質】

結晶質でないこと。固体原子分子などの配列に規則性が認められないもの。無定形物質アモルファス。⇔結晶質

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「非晶質」の意味・読み・例文・類語

ひしょう‐しつヒシャウ‥【非晶質】

  1. 〘 名詞 〙 結晶質でないこと。また、その物質。物質を構成する原子または分子が規則正しい結晶格子を作っていないものをいう。無定形物質。⇔結晶質。〔英和和英地学字彙(1914)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「非晶質」の意味・わかりやすい解説

非晶質
ひしょうしつ
amorphous substance

結晶ではない固体の総称。非結晶質、無定形物質、あるいはアモルファスともいう。

 固体が結晶であるかないかの判定は、主としてX線回折法で明確な回折現象が示されるかどうかによる。したがって、明確なX線回折像を与えない物質が非晶質である。原子間距離の尺度での長距離にわたる原子の規則的配列があれば、通常は結晶としての明確なX線回折像が観測される。結晶であっても、個々の粒径が0.1マイクロメートル以下程度の微粉末になると、明確なX線回折像は現れがたい。本質的には結晶としての規則的原子配列構造を保有している粘土鉱物や石墨(黒鉛)でも、そのような微粉末の状態では無定形とよばれる。ガラスは一般に凍結した、あるいはきわめて粘度の高い液体とみることが可能であり、本質的に無秩序な原子配列をとる非晶質である。

 放射性同位体を多く含む鉱物においては、外形は結晶としての対称性を示す多面体構造を保持していながらも、明確なX線回折像を与えないものがあり、これをメタミクトmetamictという。放射線損傷によって原子間距離の規模での結晶格子の破壊がおこり、巨視的には結晶のようであっても、微視的には非晶質となるのである。

 非晶質は、溶液あるいは融体の急激な冷却、気体の冷却された基板上への凝着、溶液のゲル化と徐熱などの方法でつくられる。いったん生成した非晶質は、加熱あるいは長時間の放置によって結晶化することが多い。

 建築用、光学用、容器用などの普通のガラス、石英ガラスポリスチレンシリカゲルなどは多量に使用される非晶質材料であるが、結晶とは異なる非晶質の特性を活用した機能性材料も利用例が多い。

 光ファイバーには石英系ガラスのほか、金属複フッ化物ガラスが新材料として注目を集めており、太陽電池には非晶質ケイ素が使われる。光電材料としては、電子写真(乾式複写)の光像生成に無定形セレンが、印写剤に無定形炭素粉末(トナー)が使われる。炭素族および窒素族のカルコゲン化物は撮像デバイス、光記録材料、レジストなどの材料として重要である。遷移元素典型元素(主要族元素)の金属あるいは非金属のさまざまな組成の合金はアモルファス金属とよばれ、従来の結晶性合金とは異なる磁気的性質、機械的性質を発揮する新材料となっている。

[岩本振武 2015年7月21日]

『作花済夫著『アモルファス』(1983・共立出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「非晶質」の意味・わかりやすい解説

非晶質 (ひしょうしつ)
amorphous

均質な固体物質であって,あらゆる性質についての測定値が方向によって変わらないものを非晶質(アモルファス)といい,ガラスやゴムがその例である。これに対して,その測定値が方向によって変わるような性質をもつものが結晶(クリスタル)である。花瓶などのカット・グラス製品はクリスタルガラスと呼ばれるが,物質としての内容は〈クリスタル〉ではなくて〈アモルファス〉である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「非晶質」の意味・わかりやすい解説

非晶質【ひしょうしつ】

均質な固体物質であって,あらゆる性質についての測定値が方向によって変わらないものを非晶質(アモルファス)といい,ガラスやゴムがその例である。これに対して,その測定値が方向によって変わるような性質をもつものが結晶(クリスタル)である。
→関連項目固体等方性

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「非晶質」の意味・わかりやすい解説

非晶質
ひしょうしつ
amorphous substance

無定形物質ともいう。結晶とは異なり,原子や分子が規則正しい空間格子をつくらないで,乱れた配列をしている固体。構造的には液体とみなせる。加熱すると,結晶質が一定温度で融解して液化するのとは違って,ある温度範囲で次第に軟化して液状となる。非晶質の例にはガラス,ゴムやプラスチックなどの高分子,非晶質合金非晶質半導体などがある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

岩石学辞典 「非晶質」の解説

非晶質

原子または分子が規則正しい空間的配置の格子をもつ結晶を作らずに集合した固体状態の物質の状態.岩石ではガラスがこの状態である.

非晶質

ガラス質

出典 朝倉書店岩石学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の非晶質の言及

【結晶】より

…すなわち,対称の種類が問題となるのは,図形や物体が異方的である場合に限られる。 均質な固体物質が図3のaのようにある性質について異方的であるとき,その物質は結晶質crystallineであるといい,あらゆる性質が図のbのように等方的であるとき,その物質は無定形質あるいは非晶質(アモルファスamorphous)であるという。結晶質の物質の中には,ある性質については異方的であるが,他の性質については等方的であるようなものもある。…

【結晶】より

…すなわち,対称の種類が問題となるのは,図形や物体が異方的である場合に限られる。 均質な固体物質が図3のaのようにある性質について異方的であるとき,その物質は結晶質crystallineであるといい,あらゆる性質が図のbのように等方的であるとき,その物質は無定形質あるいは非晶質(アモルファスamorphous)であるという。結晶質の物質の中には,ある性質については異方的であるが,他の性質については等方的であるようなものもある。…

※「非晶質」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android