日本大百科全書(ニッポニカ) 「ズントー」の意味・わかりやすい解説
ズントー
ずんとー
Peter Zumthor
(1943― )
スイスの建築家。バーゼル生まれ。バーゼルの造形学校を卒業後ニューヨークに渡り、プラット・インスティテュートで学ぶ。建築家としてのキャリアは、1968年にスイスの最南東部、グラウビュンデン州政府の歴史的建造物保存局の建築家として勤務することから始まる。78年、チューリヒ大学の教授として勤務した後、79年にグラウビュンデン州ハルデンシュタインに自らの建築事務所アトリエ・ズントーを構える。
保存局での経験と豊かな自然に恵まれた環境での生活を通じて、歴史的および文化的遺産への物質的・景観的理解と配慮をもつ表現方法を修得。87年には、初期作品のレート邸(1983)、アトリエ・ズントー(1986)、ローマ遺跡のためのシェルター(1986)などの設計に対し、グラウビュンデン州優良建築賞受賞。この時点ですでに、新しいタイプのリージョナリスト(地域に強く関連した方法でデザインする建築家)として認められている。
94年にも聖ベネディクト教会(1989)、マサンスの老人ホーム(1993)、グガルン・ハウス(1994、いずれもグラウビュンデン州)などの設計で再び、同賞を受賞。
作品は、静謐(せいひつ)でやさしい印象を与える作風をもつと同時に、建設地の地元の天然材料を大胆に用い、幾何学的抽象性をも表現している。20世紀後半から国際的にも名前を知られはじめたスイス人建築家たちの特色の一つでもある、ミニマルな表現の代表格の一人とも見なされるようになるが、その評価も、95年、MoMA(ニューヨーク近代美術館)で開催されたライト・コンストラクション展で決定的となり、日本でも非常に人気のある建築家の一人となる。
建築の材料とその用い方に対する鋭い分析が高い評価を得て、88年にはロサンゼルスの南カリフォルニア建築大学(SCI-arc)客員教授、89年にはミュンヘン工科大学客員教授、さらに、ニュー・オーリンズ、トゥーレーン大学客員研究員(1992)、ベルリン芸術アカデミー会員(1994)などを歴任。その後、イタリアとの国境にほど近いスイス南部のティチーノ州メンドリシオにあるスビッツェラ・イタリアーナ大学(USI)建築アカデミーの教授を務めつつ、ハーバード大学GSD(大学院大学デザイン・コース)での客員教授も兼任している。
96年にドイツ、エーリッヒ・シェリング建築賞、98年にはコペンハーゲン、カルルスベリ建築賞を受賞。また99年、ブレゲンツ美術館(1997、オーストリア、フォアアールベルク州)の設計に対し、ミース・ファン・デル・ローエ賞を与えられている。
[堀井義博]
『『ピーター・ズントー』(『a+u』1998年2月臨時増刊・エー・アンド・ユー)』▽『Thinking Architecture (1998, Princeton Architectural Press, New York)』▽『Peter Zumthor Works; Buildings and Projects 1979-1997 (1999, Birkhäuser, Basel)』▽『Peter Zumthor, Architekturgalerie Luzern ed.Three Concepts (1997, Birkhäuser, Basel)』