改訂新版 世界大百科事典 「セビリャの理髪師」の意味・わかりやすい解説
セビリャの理髪師 (セビリャのりはつし)
Le barbier de Séville
フランスの劇作家ボーマルシェの戯曲。フィガロ三部作の第1部。別名《無益な用心La précaution inutile》といい,4幕の喜劇。1775年パリで初演。階級の不平等,特権者の専横等に対する政治的風刺を多く盛りこんでいる。
舞台は18世紀,スペインのセビリャ。富裕で美しい娘ロジーヌ(ロジーナ)を見染めた貴族アルマビバ伯爵が,ロジーヌの後見人である医者のバルトロによる邪魔だてにもかかわらず,理髪師で町のなんでも屋を自任するフィガロの知恵と機転に助けられて首尾よく結婚するという物語。数多くの作曲家がオペラ化しているが,次の2作が有名である。
(1)ロシアのエカチェリナ2世に宮廷作曲家として仕えていたイタリアの作曲家G.パイジェロが1782年ペテルブルグで初演した2幕4場のオペラ。D.O.ペトロセリーニの台本による。
(2)ロッシーニがC.ステルビーニの台本に作曲,1816年ローマで初演した2幕4場のオペラ。パイジェロと競作するつもりもなかったロッシーニは,《アルマビバAlmaviva》または《無益な用心》という題で初演したが,パイジェロ一派の激しい妨害にあって初演は大混乱を招いた。しかし,原作のせりふのもつ快適なリズムとエスプリにかなったロッシーニ特有の,流麗で才気煥発,奔流のような音楽の魅力によってしだいに声価を高め,イタリア・オペラの代表作として愛好されている。日本初演は1917年11月テノール歌手田谷力三ほかによって赤坂ローヤル館で行われ,21年にはロシア歌劇団,43年には藤原歌劇団が抄演。48年3月藤原歌劇団によって全曲が演奏された。
執筆者:武石 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報