タチシノブ(その他表記)Onychium japonicum(Thunb.)Kunze

改訂新版 世界大百科事典 「タチシノブ」の意味・わかりやすい解説

タチシノブ
Onychium japonicum(Thunb.)Kunze

ホウライシダ科の多年生シダ植物。シノブに似ているが,地上生で,葉も大型なため,この和名がある。根茎匍匐(ほふく)し,密に葉をつける。葉は細かく3~4回羽状に分裂して,全体無毛。胞子をつける葉は全体に大型で,長さ40~80cm,葉柄は通常,紫褐色に色づく。胞子囊群は細長い裂片の辺縁に向きあって生じ,葉縁が折れかえった膜状の包膜につつまれる。胞子は四面体形。福島県以南の暖地木陰や日なたにやや普通に見られ,斜面岩場などの水はけのよい場所を好む。中国,インドから南はマレーシアまで分布している。英名には裂片が爪状になることによるclaw fernと葉がニンジンの葉に似ることによるcarrot fernとがある。近似種にキンシノブO.siliculosum(Cav.)C.Chr.があり,観賞用に栽培される。タチシノブ属はシノブに似ているが,常緑性であり,包膜がコップ状にならない点で簡単に区別できる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タチシノブ」の意味・わかりやすい解説

タチシノブ
たちしのぶ / 立忍
Japanese claw fern
carrot fern
[学] Onychium japonicum Kunze

イノモトソウ科の常緑性シダ。冬でも緑の葉を茂らせるところから、カンシノブ寒忍)ともいう。形態シノブ科のシノブに似ており、匍匐(ほふく)する根茎から、3、4回羽状複葉の葉をつけ、高さ30~60センチメートルになる。栄養葉胞子葉の二型があるが、栄養葉は胞子葉よりも小さい。関東地方以西の暖地に生じ、中国、インド、パキスタンミャンマービルマ)、フィリピンなどにも分布する。中国では地下部を解毒、利尿止血などに薬用し、フィリピンでは葉汁を脱毛防止薬として用いる。

[栗田子郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タチシノブ」の意味・わかりやすい解説

タチシノブ(立忍)
タチシノブ
Onychium japonicum; claw-fern

ワラビ科の常緑性シダ植物。カンシノブともいう。日本の東北地方南部以西および朝鮮南部から東南アジアの熱帯にかけて広く分布する。山地の樹林下に普通にみられる。根茎は匍匐し,褐色の薄い鱗片を密生する。葉は 50cm前後に達し,葉身は3~4回羽状複葉で,裂片は細長い。胞子葉と栄養葉の2型が区別され,胞子葉のほうが切れ込みも深く大型になる。和名は,シノブに似ていて葉が直立することにより,またカンシノブはシノブが夏緑性なのに対し,冬でも枯れないためである。

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