改訂新版 世界大百科事典 「タヌキノショクダイ」の意味・わかりやすい解説
タヌキノショクダイ
Glaziocharis abei Akasawa
四国の照葉樹林林床に生えるごくまれなヒナノシャクジョウ科の腐生植物。葉緑体をもたず黄白色。分枝した根茎が落葉の下にうずまり,高さ1~4cmの花茎を立て,その頂部に1花をつける。花期は夏。花はつぼ形の花筒部を有し,長さ1cmほど,3枚の内花被片は細長い倒卵形くさび形で,その頂端部で相互に合着して,ドーム状の構造になる。おしべは6本で,花筒部の内縁につく。たいへん奇妙な形の花で,最初徳島県で阿部近一が発見(1943)し,赤沢時之が阿波のタヌキにちなんでか,タヌキノショクダイの和名を付し,1950年に学会に報告した。その後,この属の植物は九州(霧島山域)でも発見されたが,珍品である。
同属の植物はブラジルに1種知られており,地球上でもっとも遠距離の隔離分布の例となっていて,植物分布の点からも珍しい。原産地は国の天然記念物に指定,保護されている。
執筆者:堀田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報