灯火具の一種で,ろうそくを立てる台。日本では灯油と灯芯による灯火具としての灯台は早くから行われ,平安時代にはすでにその形もととのったが,燭台はいつごろから使われたかはっきりしない。ろうそくが中国から伝えられたのは鎌倉時代の末ころではなかろうかといわれ,燭台もまたこれにともなってそのころ伝来したものともみられる。1444年(文安1)の《下学集》に〈燭台〉の語がみえるが,室町時代には香炉,花瓶とともに三具足(みつぐそく)といって仏前に供える風が盛んになり,また座敷飾の道具として掛軸の前におくことが《君台観左右帳記》にみえ,〈五具足と申候て,鶴燭台一対,花瓶一対,香合(こうごう),香匙(こうさじ)台をかれ候〉と記されている。その形は《御飾記》の図によると銅製の亀の背に鶴が立ち,そのくちばしにろうそくの立皿(たてざら)が取り付けられている。また当時陶製の燭台が用いられたことは,同じく《君台観左右帳記》に,〈茶碗の三具足の時,桔梗(ききよう)口燭台とてかくの如きの茶碗の物の有べし。まれなる物にて重宝にて候〉とある。この陶製の燭台では,安土桃山時代ころの織部焼(織部陶)で南蛮人物をかたどった珍しいものがのこっている。江戸時代には燭台は行灯(あんどん)とともにひろく一般に使われ,各種の形のものができたが,だいたい銅製が多く,構造は台上の細長いさおの上にろうそくを立てる火皿をつけ,さおに芯切をつけるようになっている。銅製のほか,黄銅製,銀製,陶製あるいは木製漆塗に蒔絵が施されたものなどがある。芯切は燭剪(しよくせん)とも書き,文亀本の《饅頭屋本節用集》にもみえる。なお手持ちの燭台を手燭(てしよく)といい,銅製のものが多く作られた。
執筆者:岡田 譲
英語でキャンドルスティックcandlestick,フランス語でシャンドリエchandelierという。厳密にはキャンドルスティックはろうそく1本立てのものをいい,それ以上の大型のものはキャンディレブラムcandelabrumとよばれている。ただし後者はろうそく用に限らず,灯油ランプ用のものに対しても用いられる。また,イギリスでは天井からつるす大型の灯器をシャンデリアといい,この語もろうそく用に限らず,ガス,電灯用のものについても用いられる。17~18世紀に盛んであった壁面に取り付けるブラケット形燭台はスコンスsconceとよばれる。
西洋におけるろうそく使用の起源は明らかでない。ふつうフェニキア人の発明と考えられている。帝政ローマ時代にろうそくが存在したことは明らかであるが,ローマ時代には一般には灯油ランプが用いられていた。文献上では旧約聖書に燭台の記述がいくつかあるが,その当時燭台が存在した証拠にはならない。しかし,ローマ時代のエルサレムの神殿には,旧約の記述どおりの7本の枝のある大燭台が飾られていた。ティトゥス帝がエルサレムからそれを戦利品として持ち帰った図が,同帝の凱旋門の浮彫に描かれている。それによると,ろうそくは,へこみの承口(うけくち)にさし込まれたもののようである。ろうそくの使用が盛んになったのは,中世のキリスト教教会堂においてで,ロマネスク様式の鉄製,銅製,青銅製のものが多く現存する。形は簡素であるが,七宝装飾を施したものが相当あるし,ささえを人体にかたどったものなどもある。当時のものは,日本の燭台のように先のとがった棒にろうそくをつき立てるようになっている。14世紀からはふたたび,へこみの承口にろうそくを立てる燭台が現れ,ルネサンス以後はそれが一般化した。シャンデリアの前身は灯油ランプを輪形にのせたものであるが,中世にはろうそくを環状に立てるシャンデリアが用いられた。アーヘンの宮廷礼拝堂(現,大聖堂)には,12世紀後半の銅製のシャンデリアが現存する。ルネサンス時代には,教会堂用の豪華なキャンディレブラムが作られたが,その大型のものには大理石が用いられ,著名な彫刻家の作もある。世俗用にも豪華な燭台が作られるようになったのはルネサンス時代末からで,材料にも銀が用いられるようになった。宮廷およびサロンでの夜の社交生活が盛んになった17~18世紀は燭台の黄金時代で,銀製のほか陶磁器製や,めっきブロンズの華麗な燭台がバロックやロココ様式で作られた。シャンデリアとスコンスはロココ様式の華麗な室内装飾に重要な役割を演じた。ガラスをシャンデリアの装飾に使うようになったのも18世紀である。19世紀の燭台は,18世紀のロココか古典主義様式によったものが多い。19世紀末から電灯が急激に発達したため,20世紀になってからは燭台は装飾的用途にだけ用いられるようになった。
執筆者:山田 智三郎
燭台は薪に代わる油灯(初めは獣油,六朝期には植物油を使った)やろうそくの使用とともに始まり,その時期は古く戦国時代にさかのぼる。漢代の中山王劉勝夫妻の墳墓から発見された長信宮灯,朱雀灯(すざくとう),羊灯は,燭台の部分がそれぞれ宮女,鳥,羊の姿をしており,デザインが斬新で美しい。長信宮灯にはすでに明りの調節や煙の吸収等の工夫がある。のちに大別して長檠(ちようけい)と短檠の2種が作られたが,前者は固定式,後者は移動式である。
執筆者:植木 久行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ろうそく用灯火具の一種。ろうそくを立てて点火する台で、もっぱら室内の照明や寝室の常夜灯として使用された。
日本で燭台が初めて使用されたのは奈良時代で、仏教の伝来に伴って輸入されたろうそくとともに、仏前の荘厳(しょうごん)として用いられていた。しかも、当時用いられたろうそくは、中国から輸入の蜜蝋(みつろう)で、貴重品であったから、宮廷、寺院の一部に用いられたにすぎなかった。燭台の語が文献にみえるのは、1444年(文安1)の『下学集(かがくしゅう)』が初めであるが、これ以前はあるいは灯台の名でよばれていたのかもしれないし、また、このころ国内で木ろうそくの製造が始まり、燭台が広く普及し始めたためであったからかもしれない。室町時代に入ると、燭台は香炉(こうろ)・花瓶(かびん)とともに三具足(みつぐそく)・五具足などといって、仏前に供える風が盛んになり、また室内装飾として掛軸の前に置くことなどが流行した。仏前に供える燭台としては、カメの背にツルが立ち、その嘴(くちばし)にろうそく立ての皿が取り付けられた銅・真鍮(しんちゅう)製のものがあり、室内装飾としての燭台には陶製のものもつくられるようになり、この時代の南蛮人をかたどった珍しい織部焼(おりべやき)の燭台なども残っている。江戸時代には、燭台は行灯(あんどん)とともに広く一般化し、各種の形のものができたが、だいたい木・鉄・真鍮などでつくられ、構造は、台上の細長い支柱の上に、ろうそくを立てる火皿をつけ、その支柱に芯切(しんきり)をつけたものであった。また手で持ち運ぶ手燭(てしょく)という燭台も用いられ、これに火袋(ひぶくろ)を取り付けたものを雪洞(ぼんぼり)とよんだ。
中国では、ろうそくは早く紀元前3世紀に存在したことが知られており、燭台の遺物も戦国時代末と認められる河南省洛陽(らくよう)県の墳墓から出土している。その構造は、青銅製で高台の受け皿の中央に釘(くぎ)の立っているものや、楕円(だえん)形の箱状で蓋(ふた)の半面が蝶番(ちょうつがい)で開閉し、その開いた蓋の中央に釘が立っている燭台などであった。また漢代の墳墓からも燭台が出土しており、たとえば、中国東北部の遼陽(りょうよう)からは瓦(かわら)製明器(めいき)の筒型のものが、また中国内地からは緑釉(りょくゆう)を施したクマ型、あるいは鳥型の瓦製明器の燭台が発掘されている。
一方、ヨーロッパでも、蜜蝋が早くエジプト人やギリシア人に知られ、紀元前3世紀には、すでに存在していたとされるから、燭台はおそらくギリシア時代末に発明されたものと考えられる。ローマ時代に燭台があったことは確かで、数は少ないが、ティトゥス帝の凱旋(がいせん)門やポンペイの遺跡などから、当時の燭台を知ることができる。中世になると、キリスト教寺院では、鉄・銅・青銅製の燭台が盛んに用いられ、さらに17~18世紀の宮廷では、室内装飾として、もっぱら銀・陶磁器やブロンズ製の華麗な燭台がつくられ、用いられた。
[宮本瑞夫]
『宮本馨太郎著『燈火――その種類と変遷』(1964・六人社)』
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…〈ぼんぼり〉は〈ほんのり〉の語の転訛で,灯火を紙や布の火袋(ほぶくろ)でおおい,火影のほのかにすいてさだかならぬをいったという。〈ぼんぼり〉は,はじめ広く灯火,茶炉(さろ)などに取りつけたおおいのことであったが,ついで小型の行灯(あんどん)をいうようになり,後にはもっぱら紙・布などをはった火袋を取りつけた手燭(てしよく)または燭台を呼ぶようになった。手燭や燭台はろうそくを用いる灯火具で,普通には灯台のように裸火をとぼしたが,その炎が風のためにゆり動かされ,吹き消されたりするのを防ぎ,かつ失火のわざわいを避けるために,行灯のようにこれに火袋を取りつけた〈ぼんぼり〉が考案された。…
…仏前の供養具である花瓶,燭台,香炉の三つ道具を総称していう。しかし,室町時代には供養具の性格から離れ,鑑賞具として扱う考えが生まれる。…
…ユダヤ教の典礼具の一つである多枝燭台。その原型は,神の命令によって幕屋(まくや)の聖所に置かれることになった純金の七枝の燭台である(《出エジプト記》25:31~35)。…
※「燭台」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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