植物分布(読み)しょくぶつぶんぷ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「植物分布」の意味・わかりやすい解説

植物分布
しょくぶつぶんぷ

植物の空間的な配分をいい、大きく種類の分布群落の分布に分けられる。

種類の分布

植物の生育する場所は種類ごとに決まっている。なかには年々生える所が変動するものもあるが、大部分の種類では一定している。具体的にある植物種の生えている所を分布地点といい、分布地点を地図上に示したものが分布図である。分布地点の集まりをある基準に沿ってまとめ、その外縁を線で結ぶと一つの地域が囲まれる。これを分布圏という。分布圏は、ごく狭いものから大陸全体、あるいは数個の大陸にわたるものまで大小さまざまである。こうした多様な植物の種類の分布圏を比較することは、類似の分布圏をもつ植物を発見する手掛りとなる。多くの種類が同じような分布圏をもっている場合、それを分布型としてまとめるのが通例である。こうした分布地点、分布圏、分布型は、種だけではなく、属、科などといったさまざまな分類ランクについて適用することができる。一つの分布型の占める地域が植物分布類型の単位(区系単位)であり、一つの分布型に属する植物の種類は分布要素となる。この区系単位を、狭いものから、それを包括する、より広いものへと体系化したものが区系区分である。普通の区系区分においては、もっとも大きな単位を区系界群とし、それから下に区系界、区系区、区系地域などのように区分していく。これらの単位の間に亜区系区のように中間的単位を置くことも行われる。以下、相観に基づいた日本の植物区系について触れる。

(1)低地の照葉林帯(照葉樹林帯)は旧熱帯区系界の東南アジア区系区に入り、カシ類、常緑クスノキ科ツバキ科などがその特徴をなす。このうち、琉球(りゅうきゅう)諸島がもっとも種類に富み、固有種も多い。小笠原(おがさわら)諸島にも固有種は多いが、全体の種類数は少ない。また、その固有種の多くは琉球諸島に類縁をもっている。本州、四国、九州の照葉林帯は氷期にほとんど壊滅状態となり、現在の照葉林帯は氷期後に回復したもので種類が貧弱である。

(2)日本の山地の夏緑林帯は中国の北半分とともに全北区系界の日華区系区を構成し、その一部はヒマラヤの中腹にまで及んでいる。この部分は寒冷期の影響が少なく、日本の植物相のなかでは、もっとも固有種に富んだ部分となっている。このうち、日本海側の多雪地と太平洋側の寡雪(かせつ)地とでは、植物相が対照的に異なり、別々の区系単位をなしている。また、北海道の夏緑林帯はやや種類が少なく、中国の東北部方面との共通性が強い。

(3)高い山地に現れる針葉林帯(針葉樹林帯)とその上部のハイマツ帯は、ともにシベリア東部と共通の植物が多く、全北区系界の東シベリア区系区に属する。このうち、本州中部山岳がもっとも種類に富み、この中心から外れるにつれて種類相が単純化していく傾向がある。北海道の針葉林帯は樺太(からふと)(サハリン)や沿海州方面と共通性があり、本州とは異なっている。

(4)ハイマツ帯よりもさらに高い所やハイマツ帯の尾根筋(すじ)などに現れる低小草原帯は周極地方との因縁が深く、全北区系界の極地・高山区系区に属する。極地・高山区系区のなかでも、とくにアリューシャン、カムチャツカ、アラスカなどの周北太平洋地域との関係が深い。このように日本の植物区系は4個の区系区が垂直的、水平的に重層して存在していることになる。

[大場達之]

群落の分布

ある植物の分布が地図上に分布圏として示されたとしても、その植物は分布圏内のどこにでもみられるというものではなく、種類によってそれぞれ、林の下とか、河原とか、岩場というように生える環境が決まっている。つまり、ある環境にはその場所を好む植物が集まって生育するということになる。こうした同質の環境に生える植物の集まりを群落という。ブナ林とかアシ原とかがこの群落である。群落は種類の場合と同じように、それぞれ固有の分布地点をもち、分布圏が認められ、分布型から分布類型へという体系が組み立てられる。しかし、群落の分布においては種類の場合と違い、地図上に面として表現できる場合が多い。一地域の植物群落の分布を地図に表現したものが植生図である。一つの地域には多数の植物群落が存在するが、そのすべてが植生図に表現できるわけではなく、縮尺の程度に応じて省略されて表されるのが普通である。植生図を見ると、環境条件が極端な所ほど群落が単純化し、諸環境要因が中立的・中生的になればなるほど複雑な構成をもつ群落が成立していることがわかる。人為的な植生の破壊がなければ、中生環境の群落が地域の大部分の面積を占め、その間にその他の局地的小面積の群落が散在するのが普通である。ある中生環境の群落を中心にさまざまな群落が複合した「群落集団」があるとき、その地域を群落域とよぶ。たとえばブナ林を中心とする群落集団の広がりをブナ林域というなどである。群落域が広い地域を連続的に占めて一つの帯をなすものを「植生帯」といい、ブナ帯、シラビソ帯などのようにいう。また群落の区分の基準を相観においた場合は、夏緑広葉林帯、常緑広葉林帯のようにもよぶことができる。このような植生帯は気候帯とよく対応する。これら植生帯を決定する要因は温度と降水量であり、降水量が十分な所では温度が支配的となり、緯度の高低または山の高低にしたがって植生帯が配列している。

[大場達之]


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世界大百科事典(旧版)内の植物分布の言及

【植物】より

…胞子の飛散によって分布域の拡大を行っている植物群の分布は,種子植物の場合と必ずしも一致するとはかぎらないが,種子植物以外の植物群の分布をおもな資料として,地球上における植物の分布について詳細な比較がなされることはむしろ珍しい。 動物地理区に対比させて,地球上の植物の分布区系を全北植物区系界,旧熱帯植物区系界,新熱帯植物区系界,オーストラリア植物区系界,ケープ植物区系界,南極植物区系界に六大別しようとする意見が古くからあったが,最近では,グッドR.Goodの区分を基本とする37の植物区系を設定して,地球上の植物分布を整理しようという傾向が強い。これによると,日本列島の大部分は中国からヒマラヤにかけての地域と共通で,日華植物区系区Sino‐Japanese regionとなり,北は南サハリンから南千島までを含むことになる。…

※「植物分布」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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