日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダビング」の意味・わかりやすい解説
ダビング
だびんぐ
dubbing
本来は、映画や放送の録音において、同時録音で台詞(せりふ)の編集を終えた音フィルムに、アフター・レコーディングの形でなまの伴奏音楽や音響効果などを追加録音することをいう。現在では、この意味から外れ、または範囲を拡大して、記録内容のコピー(複製)やムーブ(移動)などの操作を包括することばとして使われることが多い。このような用法は、テープレコーダーの普及によって、レコード、コンパクトディスク(CD)、テープなどのメディアに録音された内容を他のテープなどにコピーする複製作業をダビングと称したことが始まりで、その後、音だけでなくビデオ記録のコピーにもダビングということばが使われるようになった。さらに音や映像の記録がデジタル方式になると、著作権保護の立場からコピー制限が課せられるようになり、コピーをとると元のメディアの記録が消去される、ムーブとよばれる方式が登場するが、このムーブに対しても、ダビングという呼び方が使われている。BSデジタル放送の有料チャンネルや110度CS放送(東経110度に位置する通信衛星を使ったデジタル放送)の多くで採用されているコピーワンスとよばれるやり方はムーブで、レコーダーのハードディスクに記録された内容をブルーレイディスクやDVD-R(追記型のDVD)に移すことは1回限り可能であるが、移すと元のハードディスクから記録内容が消去される。地上デジタル放送、BSデジタル放送の無料チャンネルおよび110度CS放送の一部で採用されている「ダビング10(テン)」とよばれるシステムは、コピーとムーブの併用で、ハードディスクからブルーレイディスクやDVD-Rに移すことは9回までがコピーで、10回目にムーブとなって元のハードディスクから記録内容が消える。現在ダビングということばは広い意味合いで使われているが、コピーやムーブとの関連で定義がややあいまいに思われるのは、ダビングが学術用語ではなく、業界用語に由来する慣用語であるためである。
[吉川昭吉郎]