演劇・映画・ラジオ・テレビなどにおいて,劇の進行上必要な音(擬音)を創造・表現して,劇の進展を助け雰囲気を盛り上げる舞台効果の一つ。各分野でその内容は異なるが,大要は同じなので,ここでは演劇の音響効果について記す。
《古事記》や《日本書紀》に,天の岩屋戸に隠れた天照大神(あまてらすおおかみ)の出現を祈念して,天鈿女命(あめのうずめのみこと)が俳優(わざおぎ)・歌舞をし幽意を解いたとある。長鳴き鳥を鳴かせ,竹と矛を打ち鳴らし足ぶみし,大勢が手拍子かけ声出せば,何ごとと天照大神は岩屋戸を開けるだろう。この神話は音響効果の起源をも物語っている。中国,朝鮮より伎楽・雅楽・散楽が伝来し楽器も輸入され,日本古来の神事や民俗芸能とまざり変化して大衆の中に入る。下って永禄年間(1558-70)には琉球より三味線が伝来し町衆踊に使われ,出雲のお国による歌舞伎踊が流行する。やがてちょぼ(竹本)が使用されるようになり,柝(き)や〈つけ〉・囃子(はやし)の様式が芝居をいっそう華やかに大きく観せるようになった。歌舞伎の多様化につれて囃子がくふうされ,情景描写の音楽や雨風等の自然を表現する太鼓,擬音効果的な時計・駅路(えきろ)のようなものも生まれた。他方,小道具方による音の出る道具も多く発明され,今日のなま音器具として残っている。築地小劇場開場(1924)により,stage-effectの訳語として〈舞台効果〉の名称が生まれ,劇の演出上重要な分野として舞台照明,舞台装置などとともに独立した職能となった。ラジオ放送開始(1925)以後,電気音響機器の発展にともない,演劇・放送・映画界に変革が起こり,1952年演劇に初めてテープレコーダーが使用され,音響効果の様式を一変させた。
世界の代表的作家の戯曲から音の変遷をみると,16世紀のシェークスピアのト書きには音らしいものはみられないが,300年後のイプセンの戯曲にはいろいろな音の指示がある。イプセンの《野鴨》(1884)から20年後のチェーホフ《桜の園》(1904)になると,すばらしい音のト書きが数々みうけられるが,その背景にはモスクワ芸術座の音響係の努力があった。
現在,日本で最も一般的に行われている方法は,なま音(楽器演奏や擬音効果も含む)とテープ録音による電気音響効果の併用である。ヨーロッパは伝統的になま音が主であり,劇団が楽士をもっているので音楽はもちろん擬音効果も楽器でやる風習がある。大砲,銃声等も本物の火薬を使うことができるのも日本と大きく異なる点である。近年電気音響機器の使用も多くなったが,まだ日本の比ではない。
実際の作業に即し,その概略を記す。(1)プラン 作品内容をつかみ演出プランにそった音を創造する。(2)音の作り方 芝居はいかに写実的なものでも,現実ではなく作られたものである。その〈うそ〉の中へ〈本もの〉の音を出してもうまくいかない。たとえその音が〈うそもの〉であっても,それがいちばんその芝居にふさわしいものならば信念をもって〈うそ〉の音を作ることが重要である。(3)音合せ 作られた音や音楽を稽古に出し,キッカケ合せ・長さの調整・音ネタの修正をする。(4)舞台稽古 ここでは音響機器やなま音器具の仕込みや点検を行い,音量や音質または音源の指向性等を俳優や他の部門とともに本番通り繰返し練習する。最後に通して,初日を待つ。
(1)なま音器具 歌舞伎の下座(げざ)とともにいろいろな鳴き声や擬音を,役者・狂言方や小道具方が必要に応じて出していた。現在も多く使われているものに,小鳥笛,虫笛,赤子笛,竹ぼら(法螺)の笛類と流し雨,雨団扇,雷車,浪かご,櫓,蛙,風車等の器具があり,下座音楽においても太鼓(雪,水,浪,雨,風),時計,オルゴール,駅路,鳴子,木霊(谺(こだま)),遠寄せがある。太鼓による自然描写,とくに雪太鼓は世界に類のない日本の誇りうる音の芸術である。(2)音響機器 1930年アメリカから効果レコードが輸入され,音盤による電気音響が続くが,テープレコーダーの出現以来日本の演劇は,機器改造とともに近代電子音響機器を駆使して一大変革をとげた。現在では,劇場の舞台のあらゆる箇所や天井,壁,足もとに仕込んだスピーカーから,効果音を自由に出せ,その移動も簡単で立体音響を遠隔の場所より操作することもできる。
ドラマがある限り音響効果は存在する。何百年と続いた伝統芸術の中にある古い技法のなま音と,新しい感覚の電気音響の音が交響するこの世界は無限の可能性を含んでいる。すでに多チャンネル・ステレオ,シンセサイザー,エコーマシン,コンピューター等の近代電子音響機器も使われているが,たいせつなことはそれを使う人の心であろう。
→下座音楽
執筆者:田村 悳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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