日本のデジタルテレビジョン放送に付随する、放送コンテンツ(放送内容)の複製防止機能の一種で、コンテンツを記録媒体にコピーする回数を1回限りに制限するもの。略してコピワンともいう。
デジタルテレビジョン放送では、コンテンツのコピーを行っても品質劣化が生じないため、コピーしたコンテンツを著作権者の許諾なしに非正規に流通させるなど、望ましくない行為が行われる可能性がある。コピーワンスはこのような行為を防止する対策として設けられた機能である。NHK(日本放送協会)と民放各社は、2004年(平成16)4月から地上・衛星のデジタル放送の全番組に原則として制限信号(COG:Copy One Generation)を加えて暗号化した放送を開始した。録画する側は、コピーワンスに対応できる録画機器にのみ暗号を解読するためのカード(B-CAS(ビーキャス)カード)を挿入して使用する。
コピーワンス機能を適用した場合、放送番組をレコーダーのHDD(ハードディスクドライブ)に録画した時点でこれを1回のコピーとみなしてその履歴が保存され、HDDからDVD-R(1回限り録画可能の書き込み用DVD)やBD-R(1回限り録画可能の書き込み用ブルーレイディスク:BD)といった別の媒体に再コピーすることは禁じられる。データをDVD-RやBD-Rなどにコピーして、バックアップ用に保存することはできないわけである。HDDにデータを残したまま再コピーすることは禁じるが、HDD内のデータを消去しながらDVD-RやBD-Rにムーブ(移動)させることだけは認めている。コピーワンスが実施された当初、ムーブされたデータをもつDVD-RやBD-Rにはコピーを行ったという情報が受け継がれて、他の媒体にコピーすることもムーブすることもまったくできないという、融通のきかない設定であった。2010年になって、ムーブバック機能をもったレコーダーが発売され、この設定は多少緩和された。ムーブバック機能とは、DVD-RやBD-Rにムーブされたデータを、ふたたびレコーダーのHDDにムーブして戻す機能である。HDDに戻されたデータをレコーダー上で編集し、別のDVD-RやBD-Rに再ムーブすることができる。記録容量の小さいBD-Rに記録されたデータを記録容量の大きい別のBD-Rに移し変えて、ディスクの数を減らしたりするにも便利である。ムーブバックされた元BDがBD-Rの場合は、データが消去されるだけで、以後利用できる容量は消去されたデータ分だけ少なくなる。元BDがBD-RE(繰り返し録画可能の書き込み用BD)の場合は、消去されたデータ分は記録可能な領域として復活し、利用できる容量の減少はない。
コピーワンス機能が利用者にとって不都合なことは、DVD-RやBD-Rなどの記録媒体に欠陥があったり、ムーブ作業中に停電したり、機材の電源ケーブルが外れたりするなどの不測の事故によりムーブに失敗した場合、ムーブ元およびムーブ先のデータがともに失われてしまうという最悪の事態を生じることがあるが、このような事態の救済・補償についてまったく対応策がとられていないことである。最悪の事態を避ける手段は、信頼性の高いDVD-RやBD-Rを使うこと、停電の予定がない日時を選ぶこと、ムーブ作業中はレコーダーにさわったり別の作業を並行して行ったりしないことなど、消極的な防衛方法しかない。なお、録画した映像を携帯機器で利用するため画素数を減らしてメモリーカードに転送すると、これもムーブにあたるため、元の画質の映像は永久に失われてしまう。したがって、画素数を減らす転送は慎重に行わなければならない。
デジタルテレビジョン放送において、コピーワンスといった権利者優先の厳しい制限を設けているのは、世界中で日本だけである。コピーワンスは著作権保護に有用であるが厳しすぎるという批判に対処して、2008年7月からより緩やかな、コピー9回、ムーブ1回を許容する規制「ダビング10(テン)」の運用が開始された。NHKおよび民放各局はこの方式を採用したが、2015年時点でBSデジタルの有料放送や、ほとんどのCSデジタル放送は、コピーワンスをそのまま継続している。「ダビング10」の詳細については、別項目を参照されたい。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
『デジタル放送研究会著『図解 デジタル放送の技術とサービス』(2006・技術評論社)』
(桜井勉 日本産業研究所代表 / 2008年)
(麻倉怜士 デジタル・メディア評論家 / 2008年)
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