ツロツブリボラ
Hexaplax trunculus
アクキガイ科の巻貝。殻はこぶし形で厚く堅固,高さ8cm,径4.5cmになる。巻きは7階になり,各巻きの肩に6本の太く短いきば状の突起がある。また全面に細いすじがある。灰白色で褐色の3本の広い帯をめぐらす。殻口は卵形で,短く広い水管に続いている。地中海に広く分布し,浅海の砂泥底にふつうである。肉食性で動物の死肉などを食べる。古代フェニキア,エジプトなどではシリアツブリボラBolinus brandaris(英名purple dye murex。殻の高さ7cm,径4cm)とともに採取して,軟体の鰓下腺(さいかせん)から紫の染料を得た。1万個から紫の染料がわずかに1.5gしかとれなかったので,はなはだ高価であった。そのためか高貴な人のみがこの染料で染めた衣を着用することを許されたので帝王紫(英名imperial purple)の名がある。またフェニキアのツロ(テュロス)の港(現,サイダ)から送り出されたのでツロ紫(英名Tyrian purple)の名もある。しかし,これだけではなくアクキガイ科の貝であれば紫の染料をとることができる。日本では志摩でイボニシで衣を染めたことが知られる。
執筆者:波部 忠重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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ツロツブリボラ
Hexaplex trunculus; trunculus murex
軟体動物門腹足綱アクキガイ科。殻高 7.5cm,殻径 5.8cm。殻は重厚堅固で太い紡錘形。螺塔は円錐形で,太い縦肋は肩で角状突起となる。殻表は灰青色地に褐色の色帯があるが,付着物でよごれていることもある。地中海に多く分布している。鰓下腺の液は日光に当ると青紫色に発色するため,フェニキアなどでは前 10世紀頃からこの液を集めて布を染めていた。これを貝紫と称する。染色された布はきわめて高価で,ローマ時代でも教会のローマ教皇と枢機卿だけが着用を許され,そのためこの染料をインペリアル・パープルとも称した。染料の成分はインジゴに臭素が結合したジブロムインジゴである。現在でもシリアなど地中海沿岸には染料をとったあとの貝殻がところどころにみられる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内のツロツブリボラの言及
【貝】より
…コヤスガイ(ハチジョウダカラガイ)を妊婦が握っていると安産するといわれるのも,コヤスガイの殻口が女性の陰部に似ていることからの連想と思われる。
[染料]
地中海沿岸のフェニキアでは前10世紀ころからシリアツブリボラやツロツブリボラの鰓下腺(さいかせん)から紫色の染料をとっていた。1万個の貝からわずかに1.5gの染料がとれ,1万7000個でやっとふつうのメルトン洋服地1着分の染料を得たという。…
※「ツロツブリボラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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