日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディスプレー・デザイン」の意味・わかりやすい解説
ディスプレー・デザイン
でぃすぷれーでざいん
display design
わが国でディスプレーという語がデザインの分野で日常的に使われ始めたのは1955年(昭和30)ごろからで、それまでは単に展示・装飾とよばれていた。ディスプレー・デザインは、ただ単に物を陳列するだけでなく、展示内容の伝達・販売促進を目的として、光、音、映像などを駆使し、空間の演出を行うことをいう。
ごく一般的なものは、店舗など商業施設において販売促進を目的としたもので、ほかの場合に比べて動きが活発であり、きめ細かで、質の高いものが多く見受けられる。
そのなかでもひときわ目だっているのがファッション関係の店舗ディスプレーで、つねに次の時代の新しいファッションを打ち出してゆくことが宿命づけられた業種であり、そのための提示が、ディスプレーという形で積極的に展開されていなければならない。実際は、ディスプレー以前に、その店舗もしくは売場での商品構成の調和とバランスが重要であり、その商品の特徴とするところを象徴的にみせたのがウィンドー・ディスプレーであり、店頭ディスプレーである。いずれもわずかなスペースながら、たとえばマネキン人形を使って、その店の主張するファッションで統合して展示する。周囲には付加的な演出として、ディスコやカフェバー、あるいは枯れ葉舞う公園、映画の名場面などを思わせる雰囲気づくりも行われる。こうしてファッションそのものを際だたせ、あるいはそのTPOもあわせて顧客に示唆し提案する。もちろん、ディスプレー・デザイナーとしての仕事は、こうした部分的な展示を行うだけでなく、むしろ店舗や売場全体の床、壁、天井、柱巻(はしらまき)、棚、展示器具、照明などについて、店のコンセプト(考え方)に沿ってデザインを進めることが仕事の主要なポイントになる。さらにマネキン人形の着付やポーズ、棚への商品の飾り付けなどは、コーディネーター、デコレーターとよばれる専門職の手で行われるのが普通である。
次に、商品宣伝や企業PRなどの場合で、展示会、見本市、博覧会などエキジビション・ディスプレーとよばれるものがある。実際には、ここでも製品とか物産の販売促進といった意味合いが含まれるが、むしろ長期的に構えたものであり、取引も業者間、企業間で行われる場合が多い。自動車ショー、ハウジングショー、あるいは産業用ロボットのためのショーなど最近非常に多くみられる。新製品の発表とともに、近未来の夢やビジョンを売り込み、企業としての発展性をアピールするための有効な場となっている。こうした展示は、広い会場を、国際統一規格(間口、奥行、高さ各3メートル)によって決められた小間(こま)(ブース)に仕切って行われる。大規模なものでは、一企業で10~20に及ぶ小間を使って展示が行われる。デザイン要素はブースを囲う壁面、客の出入りのためのゲート、受付案内コーナー、そのほか展示品の棚や台から構成される。広い会場に多くの出展があるので、当然、壁面には大きく企業名あるいは企業マークがつけられ、なによりも入場者の足を向けさせることが最重要のポイントとなる。
そのほか、教育・啓蒙(けいもう)を目的とするものは、これまでと違って販売とかPRなどの要素はまったくなく、施設は美術館や博物館など、国や地方自治体で維持され、規模や展示内容の充実したものが多く見受けられる。展示品はいずれも芸術的、科学的、歴史的に貴重であったり、希有(けう)の品物であったりするので、展示品の厳重な保護・監視が必要であり、一方、多くの人に見やすく展示することがポイントであるため、特別な配慮もしなければならない。ガラスケース、パネル展示、ジオラマ、模型、映像、テープレコーダーなどを用いた展示が主となるが、場合によっては古い機械を昔のままに動かしてみせる動態保存という形式の展示も行われる。
以上のように、その目的に応じて、いろいろなデザイン要素や演出が用いられるが、このほか遊園地やレジャーランドなどを対象としたアミューズメント・ディスプレー、催事・行事などセレモニーのためのディスプレー、案内板・道路標識・広告塔などを含めたサイン・ディスプレーなどがある。こうした社会の多様化に対応して、その需要はますます増加の傾向にあり、建築など他の表現媒体と組み合わされて、より適確でイメージ豊かな表現が要求されている。
[日下和夫]
『勝見勝他著『銀座・和光のウィンドーディスプレイ』(1981・求龍堂)』▽『森崇・寺沢勉著『ディスプレイ小辞典』(1981・ダヴィッド社)』