ディロング(読み)でぃろんぐ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディロング」の意味・わかりやすい解説

ディロング
でぃろんぐ
[学] Dilong paradoxus

竜盤目獣脚類(亜目テタヌラ類(下目)コエルロサウルス類Coelurosauriaティラノサウルス類Tyrannosauriaに属する白亜紀前期の恐竜。属名は「皇帝竜」という意味に由来する。

 1990年代のなかばに、ティラノサウルス類が、アロサウルスAllosaurusなどを含むカルノサウルス類には属さず、小形肉食恐竜を多く含むコエルロサウルス類の一つであることが明らかにされた。それにより、シノサウロプテリクスSinosauropteryxを含むコムプソグナトゥス類と鳥類との間に挟まれる系統樹が示されるようになり、各類の白亜紀前期の代表属として有毛恐竜が発見されてくると、最節約原理からみても、少なくともティラノサウルス類は幼少期には有毛であったのではないかと予測されるに至った。

 2004年に発表されたディロングは、四つの個体からなり、全長約1.6メートルと小さく、前上顎骨(じょうがくこつ)の歯がD字型の断面をもち、左右の鼻骨が癒合して一つの骨になっているなど、ティラノサウルス類の特徴をもつ。ディロングの下顎の下側と尾椎(びつい)からは、シノサウロプテリクスにみられる羽毛原型とみなされる繊維状構造とよく似たものが発見され、たぶん全身が羽毛状の構造で覆われていたと推定される。

 ディロングは頸(くび)が長く、前肢も長く、足の甲の真ん中がくさび形をしていないなどの特徴があって、体骨格はコエルロサウルス類の基本型を保っているといえるので、分類上の異論は生じない。一方、頭の上部にはY字型の稜線(りょうせん)が発達していることなど、この属に独得の特徴もみられる。

 以上のようにして、ディロングは系統解析で予想されていたティラノサウルス類の初期の姿を化石により実証したものとみなされている。一方、体が大きな成体のティラノサウルスTyrannosaurusでは、体温が上昇しすぎたときにその熱を放散するのが困難であったろうから、羽毛をもつことは適応的ではなかったに違いない。ただし、幼少時には体が小さいので羽毛で覆われていた可能性がある。これは今後の発見により明らかにされるであろう。

[小畠郁生]

『真鍋真監修、朝日新聞社事業本部編「恐竜博2005 恐竜から鳥への進化」(カタログ。2005・朝日新聞社)』

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デジタル大辞泉プラス 「ディロング」の解説

ディロング

白亜紀前期に生息した竜盤類獣脚類の肉食恐竜。全長約1.5メートル。羽毛を持っていたことが化石から確認されている。「ディロン」ともする。

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