トマト(読み)とまと(英語表記)tomato

翻訳|tomato

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トマト」の意味・わかりやすい解説

トマト
とまと / 蕃茄
tomato
[学] Solanum lycopersicum L.
Lycopersicon esculentum Mill.

ナス科(APG分類:ナス科)の多年草。栽培上は一年草として扱われる。茎は長さ1~2メートルになるが、自然には直立できず地面にはう。茎の下部が地面に接するところからは不定根を出す。葉は長さ15~45センチメートルの羽状複葉で、柔毛がある。小葉は5~9対で、長さ5~7.5センチメートル。花は黄色で直径約2~3センチメートル、花冠は5ないし10片に深裂する。葉腋(ようえき)に3~7花が房になってつく。果実の内部は数室に分かれ、多数の種子が入っている。果実の形は品種によって大小さまざまで、また果色も赤、紅、黄色などである。日本では生食用には桃紅色の果実が好まれるため、ほとんどが桃紅色の品種である。また、直径2~3センチメートルの赤または黄色の果実を房成りにつける品種や、卵形や西洋ナシ形の小形の果実の品種も普及している。

[星川清親 2021年6月21日]

栽培

苗床に種子を播(ま)いて苗を育て、畑やハウスに定植する。葉腋から盛んに腋芽を出して茂るが、日本で生食用果実を得る目的で栽培するときには、腋芽を全部摘み取って1本の茎だけを、支柱を立てて仕立てることが多い。ジュースケチャップなど加工用の目的で栽培する場合には、支柱をせず腋芽も摘まずに育てる無支柱栽培が行われる。低温には比較的強いが、1回でも霜に当たれば枯死する。土壌病害である青枯病に侵されると、急に茎の先からしおれ、数日中に地上部全体に及んで枯死する。土壌伝染性の病害を避けるため、トマトはもとよりナス、ジャガイモなどナス科の作物との連作は避け、また土壌病害抵抗性の台木専用トマト品種、たとえばBF興津(おきつ)101号などに接木(つぎき)もされる。自然の旬(しゅん)は夏であるが、現在では促成・抑制栽培などによって一年中生産される。しかし低温期の栽培では着果不良になりやすく、パラクロルフェノキン酢酸(商品名「トマトトーン」)を花房に噴霧して着果と果実の肥大を促進させている。なお、現在日本で経済的に栽培されている品種はすべて一代雑種品種(F1(エフワン))である。

[星川清親 2021年6月21日]

起源と伝播

トマトの起源と普及は新しく、栽培トマトの成立は紀元後1000年ころと推定されている。現在広く世界で栽培されているトマトの祖先種は、その一つの変種ケラシフォルメvar. cerasiforme Alef.である。これには野生型と、もっとも原始的な栽培型がある。この分布地域はトマト属の野生種と同じくエクアドルからチリ北部に至る幅150キロメートルの狭長な海岸地帯(赤道から南緯30度)であるが、さらに北はメキシコの南部から中央部の東海岸沿いの低地にまで及ぶ。とくにベラクルスを中心として豊富に自生し、その栽培型も明らかに栽培トマトとの移行型を示す種々な型がある。したがって、トマト属野生種の中心であるペルーにおいてケラシフォルメの野生型から栽培型が成立して、メキシコ地域において現在みられるもっとも進化したトマトが成立している点から、メキシコ起源であると考えるのが正しい。この地域はアステカ文化圏で、アステカ人は好んでホオズキを食用に供し、トマトに似たホオズキの育成・栽培をしていることから、ケラシフォルメの栽培と育成に努めたことが想像できる。またアステカ人はその栽培トマトの品種の語尾にナワトゥル語のトマトルtomatlをつけた。このことばが世界各国に伝播(でんぱ)した。

 「新大陸発見」後、1523年のスペインのメキシコ征服後、スペイン人によってヨーロッパに入り、1544年イタリアに、1575年イギリスに、さらに中欧諸国に伝播した。最初は観賞用で、食用に供したのは18世紀以降である。アメリカには18世紀末にヨーロッパから入ったが、19世紀末までは普及しなかった。アジアへはスペイン人によって太平洋経由でフィリピンに入り、1650年以降マレーシア東部でも栽培された。日本へは寛文(かんぶん)年間、1670年ころに長崎に伝来し、『大和本草(やまとほんぞう)』(1709)に記載されている。その後、明治初年に開拓使によって欧米から品種が導入され、赤茄子(あかなす)の名で試作された。しかし当時は独特の臭みのため普及せず、大正時代に入って、北海道と愛知県を中心として栽培が増加したが、現在のように普及をみたのは第二次世界大戦後である。

[田中正武 2021年6月21日]

食品

トマトは健康によい食品とされており、「トマトが赤くなると医者が青くなる」「トマトのある家に胃病なし」などといわれている。果実の成分は95%が水分で、タンパク質0.7%、脂質0.1%、糖質3.3%、繊維0.4%、灰分0.5%を含む。ビタミン類の含量に優れ、100グラム当りカロチン390マイクログラム、ビタミンC20ミリグラム、B10.05ミリグラム、B20.03ミリグラムのほか、B6、K、P、M、ルチンナイアシンなども含む。甘味の成分は果糖とブドウ糖、酸味の主体はクエン酸とリンゴ酸である。生食用のほか、加工用として缶詰、ジュース、ピューレ、ペーストなどにされ、それぞれ生食用品種、加工用品種がある。加工用は汁気が少なく、皮も堅くて生食用には適さない。生食用トマトは、流通経路でのいたみを少なくするため、果実が緑色で堅いうちに収穫し、小売店の店頭でちょうど食べごろになるように出荷する。しかしこのようなものは、畑で完熟させた果実に比較して食味が劣る。そこで最近では、とくに完熟トマトと表示された、完熟した果実を収穫したものが店頭に出回るようになった。トマトの皮は、果実を熱湯にくぐらせると手で容易にむけるようになる。

[星川清親 2021年6月21日]

 トマトは料理の付け合せ、サラダ、スープ、シチュー、ミートソースなどに用いる。トマト特有の青臭いにおいは青葉アルコールとよばれる成分を中心にしたもので、これは生臭みを消す働きがある。そのため、シチューやミートソースなどをつくるとき、肉とともに煮込むと肉の臭みが消える。加熱調理には適熟トマトのほか水煮あるいはトマトジュース漬けにした缶詰が利用できる。糖分の多い小粒のトマトも多く出回り、これらは料理の飾りやデザートのフルーツのかわりとしても食べることができる。

[河野友美 2021年6月21日]

『農山漁村文化協会編・刊『野菜園芸大百科2 トマト』(1988)』『青木宏史著『トマト 生理と栽培技術――野菜栽培の新技術』改訂版(1998・誠文堂新光社)』『小沢聖・佐藤百合香編著『加熱調理用トマト クッキングトマトの栽培と利用――美味しいトマト料理を食卓へ』(2000・農山漁村文化協会)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トマト」の意味・わかりやすい解説

トマト
Lycopersicon esculentum; tomato

ナス科の大型の一年草。南アメリカのアンデス山脈からメキシコにかけての原産といわれ,ペルーやボリビアなどの先住民族インディオによって栽培されていた。 16世紀なかばにヨーロッパに伝えられ,現在では世界中の温帯から熱帯で広く栽培され,最も代表的な果菜となっている。生食用のほかジュース,ケチャップ,ピューレなど加工食品としての生産が特に多い。日本には 17世紀初期に観賞用として伝えられ,食用として栽培されるようになったのは明治の後期になってからである。アカナスの和名もあるが今日ではほとんど使われない。茎は軟らかく,まばらに分枝し,1.5m以上の高さになる。葉は互生し,羽状複葉で長さは葉柄とともに 40cm以上にもなる。葉,茎ともに強い青臭さをもつ。夏に,節間から花枝を出し,数個の黄色花を総状花序をなしてつける。花は径2~3cmの星形の花冠をもち,5弁で基部が癒合する。果実は液果で初め緑色であるが,熟すると紅色,桃色または橙色になる。品種が多く,果実の色や形に変化が多い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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