翻訳|tomato
「大和本草‐六」(一七〇九)に「唐がき」という名で現われる。
ナス科(APG分類:ナス科)の多年草。栽培上は一年草として扱われる。茎は長さ1~2メートルになるが、自然には直立できず地面にはう。茎の下部が地面に接するところからは不定根を出す。葉は長さ15~45センチメートルの羽状複葉で、柔毛がある。小葉は5~9対で、長さ5~7.5センチメートル。花は黄色で直径約2~3センチメートル、花冠は5ないし10片に深裂する。葉腋(ようえき)に3~7花が房になってつく。果実の内部は数室に分かれ、多数の種子が入っている。果実の形は品種によって大小さまざまで、また果色も赤、紅、黄色などである。日本では生食用には桃紅色の果実が好まれるため、ほとんどが桃紅色の品種である。また、直径2~3センチメートルの赤または黄色の果実を房成りにつける品種や、卵形や西洋ナシ形の小形の果実の品種も普及している。
[星川清親 2021年6月21日]
苗床に種子を播(ま)いて苗を育て、畑やハウスに定植する。葉腋から盛んに腋芽を出して茂るが、日本で生食用果実を得る目的で栽培するときには、腋芽を全部摘み取って1本の茎だけを、支柱を立てて仕立てることが多い。ジュースやケチャップなど加工用の目的で栽培する場合には、支柱をせず腋芽も摘まずに育てる無支柱栽培が行われる。低温には比較的強いが、1回でも霜に当たれば枯死する。土壌病害である青枯病に侵されると、急に茎の先からしおれ、数日中に地上部全体に及んで枯死する。土壌伝染性の病害を避けるため、トマトはもとよりナス、ジャガイモなどナス科の作物との連作は避け、また土壌病害抵抗性の台木専用トマト品種、たとえばBF興津(おきつ)101号などに接木(つぎき)もされる。自然の旬(しゅん)は夏であるが、現在では促成・抑制栽培などによって一年中生産される。しかし低温期の栽培では着果不良になりやすく、パラクロルフェノキン酢酸(商品名「トマトトーン」)を花房に噴霧して着果と果実の肥大を促進させている。なお、現在日本で経済的に栽培されている品種はすべて一代雑種品種(F1(エフワン))である。
[星川清親 2021年6月21日]
トマトの起源と普及は新しく、栽培トマトの成立は紀元後1000年ころと推定されている。現在広く世界で栽培されているトマトの祖先種は、その一つの変種ケラシフォルメvar. cerasiforme Alef.である。これには野生型と、もっとも原始的な栽培型がある。この分布地域はトマト属の野生種と同じくエクアドルからチリ北部に至る幅150キロメートルの狭長な海岸地帯(赤道から南緯30度)であるが、さらに北はメキシコの南部から中央部の東海岸沿いの低地にまで及ぶ。とくにベラクルスを中心として豊富に自生し、その栽培型も明らかに栽培トマトとの移行型を示す種々な型がある。したがって、トマト属野生種の中心であるペルーにおいてケラシフォルメの野生型から栽培型が成立して、メキシコ地域において現在みられるもっとも進化したトマトが成立している点から、メキシコ起源であると考えるのが正しい。この地域はアステカ文化圏で、アステカ人は好んでホオズキを食用に供し、トマトに似たホオズキの育成・栽培をしていることから、ケラシフォルメの栽培と育成に努めたことが想像できる。またアステカ人はその栽培トマトの品種の語尾にナワトゥル語のトマトルtomatlをつけた。このことばが世界各国に伝播(でんぱ)した。
「新大陸発見」後、1523年のスペインのメキシコ征服後、スペイン人によってヨーロッパに入り、1544年イタリアに、1575年イギリスに、さらに中欧諸国に伝播した。最初は観賞用で、食用に供したのは18世紀以降である。アメリカには18世紀末にヨーロッパから入ったが、19世紀末までは普及しなかった。アジアへはスペイン人によって太平洋経由でフィリピンに入り、1650年以降マレーシア東部でも栽培された。日本へは寛文(かんぶん)年間、1670年ころに長崎に伝来し、『大和本草(やまとほんぞう)』(1709)に記載されている。その後、明治初年に開拓使によって欧米から品種が導入され、赤茄子(あかなす)の名で試作された。しかし当時は独特の臭みのため普及せず、大正時代に入って、北海道と愛知県を中心として栽培が増加したが、現在のように普及をみたのは第二次世界大戦後である。
[田中正武 2021年6月21日]
トマトは健康によい食品とされており、「トマトが赤くなると医者が青くなる」「トマトのある家に胃病なし」などといわれている。果実の成分は95%が水分で、タンパク質0.7%、脂質0.1%、糖質3.3%、繊維0.4%、灰分0.5%を含む。ビタミン類の含量に優れ、100グラム当りカロチン390マイクログラム、ビタミンC20ミリグラム、B10.05ミリグラム、B20.03ミリグラムのほか、B6、K、P、M、ルチン、ナイアシンなども含む。甘味の成分は果糖とブドウ糖、酸味の主体はクエン酸とリンゴ酸である。生食用のほか、加工用として缶詰、ジュース、ピューレ、ペーストなどにされ、それぞれ生食用品種、加工用品種がある。加工用は汁気が少なく、皮も堅くて生食用には適さない。生食用トマトは、流通経路でのいたみを少なくするため、果実が緑色で堅いうちに収穫し、小売店の店頭でちょうど食べごろになるように出荷する。しかしこのようなものは、畑で完熟させた果実に比較して食味が劣る。そこで最近では、とくに完熟トマトと表示された、完熟した果実を収穫したものが店頭に出回るようになった。トマトの皮は、果実を熱湯にくぐらせると手で容易にむけるようになる。
[星川清親 2021年6月21日]
トマトは料理の付け合せ、サラダ、スープ、シチュー、ミートソースなどに用いる。トマト特有の青臭いにおいは青葉アルコールとよばれる成分を中心にしたもので、これは生臭みを消す働きがある。そのため、シチューやミートソースなどをつくるとき、肉とともに煮込むと肉の臭みが消える。加熱調理には適熟トマトのほか水煮あるいはトマトジュース漬けにした缶詰が利用できる。糖分の多い小粒のトマトも多く出回り、これらは料理の飾りやデザートのフルーツのかわりとしても食べることができる。
[河野友美 2021年6月21日]
『農山漁村文化協会編・刊『野菜園芸大百科2 トマト』(1988)』▽『青木宏史著『トマト 生理と栽培技術――野菜栽培の新技術』改訂版(1998・誠文堂新光社)』▽『小沢聖・佐藤百合香編著『加熱調理用トマト クッキングトマトの栽培と利用――美味しいトマト料理を食卓へ』(2000・農山漁村文化協会)』
ナス科の一年草で,果実を食用とする重要な野菜の一つ。アカナスとも呼ばれた。アンデス西斜面のペルー,エクアドル地方の原産。熱帯から温帯地方にかけて広く栽培されている。温帯では一年生,熱帯では多年生になる。茎は1~1.5mに達し,直立ないし匍匐(ほふく)し,基部の地につく部分からは容易に不定根を出す。葉は多数の小葉からなる羽状複葉で茎に互生し,花房は通常茎の基部から数えて7~9節の節間に形成されるのをはじめとして,順次,先端に向かって3節間おきにつくのが普通である。花房は総状花序で4~10数花よりなり,個々の花は両性,合弁で,花弁は5~6裂し,黄色ときに白色を呈する。果形は球形,卵形,円筒形,扁円形などで,重さは10~500g,熟して朱紅色,紅色または黄色となる。植物全体に特有の臭気があるが,この臭気は黄色透明の揮発性油による。
アンデス高原地方では,アメリカ大陸発見以前からトマトが食用として栽培されていたといわれ,インディアンの移住によってアンデス高原からしだいに中央アメリカやメキシコに伝播(でんぱ)した。ヨーロッパへは大陸発見後,16世紀の初めにイタリアに導入されたが,当初は観賞用として栽培されたにすぎず,18世紀中ごろになって食用として栽培されるようになった。北アメリカへは18世紀の後半に導入された。アメリカ,イタリア両国では19世紀に入って急速に栽培が増加し,現在世界の主要な生産国となっている。日本へは18世紀初めの貝原益軒の《大和本草》に〈唐ガキ〉と記されていることから,それ以前に南方や中国を経て渡来したとみられている。当時は観賞用として栽培されるのみで,食用としての栽培は,明治初年,開拓使による新品種の再導入を機に始まる。しかし食味が一般の嗜好(しこう)にあわず,栽培は大正末ごろまでわずかであった。昭和に入ってから食生活の洋風化に伴って需要が増加し,また加工利用の道も開けて,その栽培は急速に増えた。各種の作型が発達し,生果は年間を通じて供給され,一方,総生産量の20~25%は加工用に回されている。主産地は熊本,千葉,茨城,愛知県である。
明治初年から昭和初めにかけては,アメリカやイギリスから多くの品種が導入されたが,それらのうち桃色大果で酸味の少ないポンデローザが歓迎され,広く栽培された。また導入された品種をもとに選抜淘汰や交雑育種も試みられ,1935年ころからしだいに導入品種に代わって,日本で育成された品種が主体を占めるようになった。第2次世界大戦後は一代雑種育種が盛んになり,福寿2号,新星,ひかり,宝冠2号,栄冠などの大果で酸味の少ない品種が多数発表された。近年は料理用の酸味の強い小果品種も見なおされ,家庭用ミニトマトとして栽培が広がっている。しかし産地の固定化が進み連作が重なると,種々の病害,とくに青枯病など土壌伝染性の病害が栽培上問題となる。このような状況のなかで耐病性育種も進み,現在広く栽培されている品種は,ほとんど耐病性品種となっており,また接木用の耐病性台木品種も開発されている。トマト栽培の作型は大別して次の5通りがあり,年間を通じての供給が維持されている。(1)露地栽培 3月まき,6月下旬~8月収穫。(2)促成栽培 9~10月まき,2月上旬~5月中旬収穫。(3)半促成栽培 11月まき,4~6月収穫。(4)高冷地抑制栽培 4月まき,8月下旬~10月下旬収穫。(5)ハウス抑制栽培 7月上旬~中旬まき,10~12月収穫。いずれも育苗,定植して栽培し,生果用には支柱を立てて仕立てるが,世界的にみれば無支柱の栽培が一般である。
トマトの果実成分は水分95%,全糖3~4%(ショ糖が主で,果糖,ブドウ糖を含む)。酸類は0.5%でクエン酸を主とし,シュウ酸,リンゴ酸も含む。またビタミン類に富み,とくにAとCが多い。灰分はカルシウム,カリウム,リンなどが多く含まれる。その他アデニン,トリゴネリン,アルギニンを含む。果実の赤色はリコピン,橙黄色はカロチンによる。トマトはビタミン食品であるだけでなく,アルカリ食品としての意義が大きい。生食するほか,料理にもいろいろ使われ,加工品としてジュース,ピュレー,パウダー,あるいは調味料を加えたトマト・ケチャップやトマト缶詰がある。また観賞用とされる品種もある。
執筆者:金目 武男
サラダ,サンドイッチの具などとして生食するほか,ジュース,ピュレー,ケチャップなどの原料にする。また,スープ,ソース,シチューなどの煮込み,バター焼き,蒸焼きなどにする。スタッフドトマトは,トマトをくりぬいてケースをつくり,サラダを詰めて付合せにしたり,ひき肉,タマネギなどをいためて詰め,オーブンで焼いたりする。フランスでは裏ごししてつくったピュレーをいろいろな料理に使い,イタリアではトマトを刻んで,肉,ニンニク,タマネギなどとともに油でいため,スープでのばしたものをスパゲッティその他に多用する。この方式の利用は日本ではあまり行われていないが,カレーやシチューに加えても美味であり,もっと多面的に使いたいものである。
執筆者:橋本 寿子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…キャベツの場合を例にとれば,春と秋には都市近郊の産地で,夏から初秋にかけては標高の高い冷涼地帯で,冬から春にかけては冬季温暖な地帯で露地栽培されたものが出荷されている。一方,トマトのように霜にあうと枯死してしまう種類では,冬から春にかけては冬季温暖な地帯や都市近郊の産地でハウスなどを利用して栽培されたものが出荷され,夏から秋にかけては耕地面積の広い露地栽培地帯から出荷されている。【杉山 信男】。…
※「トマト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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