翻訳|skyscraper
1880年代後半からアメリカの大都市に出現した高層ビルの総称で,〈天をこする〉ような威容をこう呼んだ。〈摩天楼〉と訳す。以来今日まで,おもに事務所・商業建築として各種方式が展開されてきた。
19世紀半ばの鉄材(初めは鋳鉄,後に鋼鉄)とエレベーターの登場,その後の鉄骨造の導入は,高層化を飛躍的に進め,シカゴを舞台に,より高くかつ軽快で透明な建築タイプが追求され,90年代に最盛期を迎えた。構造と外観の一体表現,上下連続させた細身の柱と幅広い窓による重量感の軽減そして垂直上昇感の強調,伝統様式を離れた自由なデザインなど,合理的な解決を示す例に,タコマ・ビル(1889,ホラバード,ローシェ),ライター・ビル(1890,W. ジェニー),リライアンス・ビル(1894,バーナム,ルート)がある。なお,詩人サンドバーグは《シカゴ詩集》の中の一編〈スカイスクレーパー〉で,高層ビルの一日を描いている。一方,20世紀初頭のニューヨークでは,頂上に尖塔をのせ,随所に装飾を施した折衷様式の高層建築が流行し,シカゴの箱型建築と対比をなした。シンガー・ビル(1907)やウールワース・ビル(1913,C. ギルバート)などが代表例。大恐慌後の一大建設ブームの中で,クライスラー・ビル(1930,W. バン・アレン),エンパイア・ステート・ビル(1931,シュリーブ,ラム,ハーモン),ロックフェラー・センター(1931-40,R. フードほか)が世界最高を競いあい,第2黄金期を築いた。
第2次大戦後はカーテンウォール構造による平明な版型建築が主流となり,敷地また地上階の大半を都市広場として公開する配置計画とともに,一つの定型となった。国連事務局ビル(1950,ニューヨーク,W. ハリソンほか)やレバー・ハウス(1952,ニューヨーク,SOM)は初期の例。1960年代になるとチューブ構造さらにトラスとの合体構造,またコンピューターを用いた構造解析法など新方式が開発されて,超高層化を促し,ワールド・トレード・センター(1976,ニューヨーク,M. ヤマサキ。2001年9月11日テロリストのハイジャック機に激突されて崩壊)やシアーズ・タワー(1974,シカゴ,SOM。110階建て,高さ443m)を出現させた。
効率よく経済的な設計法が定着した今日では,各種のオープン・スペースを盛り込んだ地上部分の活性化(IBM本社ビル。1983,ニューヨーク,E.バーンズ),都市景観への影響の再評価と新たな形態表現の模索(AT&Tビル。1983,ニューヨーク,P. ジョンソン),エネルギーの有効利用をはかること,一方,ビル風,電波妨害,火災など高層ビル公害の解決が重要な課題となっている。
執筆者:黒川 直樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…とくに高さや階数の基準はないが,日本では高さが31mを超える建築物を高層建築と称し,100mを超えると超高層建築と呼んでいるのが一般的である。また外国,とくにアメリカでは,その呼び方を1930年代にニューヨークで建設されたものをスカイスクレーパーskyscraper(摩天楼)とし,現代のタワーtower,トールビルtall buildingとは区別して用いているようである。
【超高層建築の沿革】
19世紀の後半から始まる超高層建築の歴史は,それを可能にしたさまざまな材料や技術,さらにはその時代を反映する表現や形態の点から次の五つの時代に区分することができる。…
… しかし,1900年代に入り,アメリカにおける商業,経済の中心がニューヨークに移り始めると,シカゴ派は退潮し,シカゴで生まれた高層建築は,技術的発展を遂げるよりも当時の商業活動を表現する象徴としてその建築形態や階数のみを競い合う存在となっていった。その結果,ニューヨークの町にはスカイスクレーパー(摩天楼)と呼ばれる高層建築が数多く林立し,建物高さのピークを築いたが,それらのスカイスクレーパーはニューヨークの空を覆い,昼間でも薄暗いといわれるような都市空間をつくり上げてしまった。エンパイア・ステート・ビル(1931。…
…とくに高さや階数の基準はないが,日本では高さが31mを超える建築物を高層建築と称し,100mを超えると超高層建築と呼んでいるのが一般的である。また外国,とくにアメリカでは,その呼び方を1930年代にニューヨークで建設されたものをスカイスクレーパーskyscraper(摩天楼)とし,現代のタワーtower,トールビルtall buildingとは区別して用いているようである。
【超高層建築の沿革】
19世紀の後半から始まる超高層建築の歴史は,それを可能にしたさまざまな材料や技術,さらにはその時代を反映する表現や形態の点から次の五つの時代に区分することができる。…
※「スカイスクレーパー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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