改訂新版 世界大百科事典 「トルートンの法則」の意味・わかりやすい解説
トルートンの法則 (トルートンのほうそく)
沸点Tb(絶対温度)における純液体1molの蒸発熱を⊿vapHとするとき,⊿vapH/Tb=88J/K・molの関係が多くの液体に対して成立するという法則。イギリスのトルートンF.T.Trouton(1863-1922)が発見した実験法則である。クリプトンのような単原子分子,ベンゼンのような多原子分子など,構成分子の種類にかかわらず,近似的にせよこの関係が成立することは,液体→蒸気という蒸発過程が分子論的な,ある普遍的意味をもつことを示し,液体中での分子運動に一つのモデルを導くことを可能にする。ヘリウムのような量子効果が顕著な液体,水や酢酸などのような特殊な会合(現在では水素結合と呼ぶ)が起こっている液体では,上の値はかなり異なる。構造化学が発展する以前に,この関係式からのずれによって分子会合の存在が予測されていた点は興味深い。アメリカのヒルデブランドJoel Henry Hildebrand(1881-1983)は,1気圧下における沸点ではなく,蒸気密度が等しくなるような温度での値を比較すれば,さらによい一致が得られることを指摘している。
執筆者:菅 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報